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忍びも歩けば棒に当たる
割と引きずるタイプ

 燦々とした陽光が気持ちよく校庭に射している。枝葉に透かした光が淡く地面に模様を作っている。乱太郎、きり丸、しんべヱの三人は、陽気に誘われるように屋外でぶらぶらしていた。

「お昼寝日和だねぇ」

 と、しんべヱが言えば、二人は大きく頷く。

「でも、こんなにいい天気だと、寝てるのも勿体無い気がするね」

 乱太郎は眩しい日差しに目を細める。こう天気がいいと、何をしても捗りそうだ。
 不意に、陽光が陰る。天気が悪くなったわけではないのに、周囲に暗雲が垂れこめる。ひんやりとした空気が頬を撫で、三人は身を震わせた。
 あ、あれは、ときり丸が植え込みの影を指差す。指の先に視線をやると、斜堂先生をはじめ、ろ組の生徒たちが膝を抱えて湿った地面に座り込んでいた。薄暗い空気が立ち込める。

「あ、螢火先生」

 ぽつりとしんべヱが呟く。残る二人が目を凝らすと、暗い空気の中に、螢火が膝を抱えて俯いていた。

「どうして螢火先生が日陰ぼっこに?」

 乱太郎が首を傾げる。三人が螢火に歩み寄り声をかけると、螢火はのろのろと顔を上げた。しんべヱがヒィと小さく悲鳴を上げる。
 青白い顔に、目の下には黒い隈。ほつれた髪が一筋、痩けた頬にかかる。青褪めた唇がにぃと笑みを形作った。普段から特段陽気で朗らかなわけではないが、穏やかで柔らかな笑みは見る影もない。

「ちょ、ちょっと螢火先生、どうしちゃったんすか?」

 きり丸が口元を引きつらせ尋ねるが、螢火は膝を抱えた腕の中に顔を埋めた。

「螢火先生、こんないい天気ですよ、ほら」
「どうしてそんな顔してるんですか? いつもみたいに笑ってくださいよぉ」

 乱太郎としんべヱが口々にそう言い、肩を組んでにっこりと見本のような笑顔を見せる。だが、肝心の螢火は顔を伏せたままそれを見もしない。
 かわりに斜堂先生が答えた。

「乱太郎くん、きり丸くん、しんべヱくん、人間誰しもいつも明るくいられるものでもないのですよ」

 螢火の隣に座っていた伏木蔵が、そうなんですか〜と螢火を見上げる。

「ぼくはてっきり、日陰ぼっこが楽しくて参加しているのかと思ってました〜」
「いやそれはない」

 伏せたままの螢火が即座に答える。そこはしっかり否定しておきたかったらしい。
 ぽ、ぽ、と螢火の両肩のあたりに小さな青い鬼火が現れたり消えたりする。それを見たきり丸が螢火の二の腕を掴み、植え込みから引きずり出そうとする。

「このままだと螢火先生が薄暗ぁくなってしまう!!」

 根拠はないが、鬼火がふよふよするのは末期な気がする。それを聞いた乱太郎としんべヱは、それは困ると一斉に螢火の手を取り植え込みから引っ張りだすことに成功した。
 ずりずり、と砂の地面に一筋の跡を残しながら、螢火は子供三人に引きずられる。やっとのことで陽のあたる場所に引きずり出された螢火は、むぐぅと呻いて全身の砂を払う。

「螢火せんせ……いったいどうしたんです?」

 うん? と螢火は乱太郎の方を見る。

「そんな、薄暗ぁくなっちゃって……」

 溜息のように、螢火は息を細く吐く。顔には笑みを浮かべているが、弱々しい。

「なんでもないよ……」
「なんでもないこたないでしょ」

 きり丸が心配そうに螢火の顔を覗き込む。螢火はぽすぽすときり丸の肩を叩いた。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

 へら、と笑い私室へと帰って行く螢火を、三人は心配そうに見送る。

「だいじょうぶ、じゃなさそうだけど」

 しんべヱが言うと、二人も大きくうなずいた。

 

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あきゅろす。
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