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絶望は蜜の味


 うわー! とジラは悲鳴を上げる。皿洗いをしていた厨房に屋敷の主人であるシャプールが全裸で現れたからだ。一糸纏わぬすっぽんぽんである。逃げ出そうにも厨房の唯一の出入り口には全裸の主人が立っている。なんだなんだ、手籠めにされるのか、と混乱するが、そういう様子でもない。むしろ、悲鳴をあげられたシャプールは心底びっくりした顔をしている。

「な、なんで! どうして裸なんです!?」
「菓子を食おうと思ったからだ」

 へぁ? とジラは間抜けな返事をしてしまう。

「分からない! 因果関係が分かりませんよ! 菓子を食いたいという因で、どうしたら全裸という果が起こるんです!? どんなカルマ背負ってんですか!? 前世で何やらかしたんですか?」

 落ち着け、とシャプールは両掌をこちらに向けた。第三者が見たら、この場でより落ち着きがないのはシャプールではないか。落ち着きどころか、正気を疑われかねない。

「おれは、稽古を終えて水を浴びた。そして、菓子が食いたくなった。糖蜜がいやというほどかかったヴァクラバだ。そんなものを食べては着物を汚すだろう。だから、着替える前に菓子を食おうと思った」
「洗濯なら私が喜んでしますから、お願いだから着物を着てください!」
「いや、仕事が増えてはおまえにいらぬ負担がかかるだろう」
「ああー! なんてオヤサシイー! 今現在、私の目と心に多大な負担がかかっているんですけれども!」
「そうか?」
「非常に申し上げにくいのですが、シャプール様のマルズバーンが初心な乙女の双眸にヤシャスィーンです」
「……おお」
「なんで乳隠すんです!? まずは下でしょう!」

 真剣な顔で胸を手で隠すシャプールに、ジラは悲鳴をあげた。



 

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