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五.呉国からの来客1
 現れたのはフードを被った三人の男だった。第二王子にも関わらず他国への訪問を護衛二人でやってくるなど、王族に振り回されているはずの大臣も驚いたらしく、歓迎の言葉を一瞬忘れてしまうほどだった。
同時に祥真は今回の異例な時間短縮の理由を察した。護衛が二人ということは王子と共に駆け馬でやってきたのだろう。人数が少なければ少ないほど、予定や宿泊の融通がきく。

「……伊吹。」
「……だろうな」

 隣の伊吹と眼が合い、祥真は伊吹が自分と同じ見解に達したことを確認した。
 一国の王子がすべき行動ではなく、それを許可した国王も信じられない。少ない人数でも旅が成り立つ、理由は二つ。余程の馬鹿か、余程の腕達者かのどちらかだ。無論どの国にも役人に知恵達者はいるはずなので、前者とは考えられない。つまり、少数精鋭でやってきたということだ。そして護衛二人だけでなく、おそらく王子も相当腕がたつ人物なのだろう。

「ようこそ、我が魏国へ。呉国第二王子、修仁殿。私は左大臣の悠里と申します。以後お見知りおきを。」
「初めまして。このたびはこちらの我儘を快く引き受けていただき感謝致します。」

 大臣の言葉に返したのは三人の真ん中に立つ男だった。一礼と共にフードを取ると見事な金髪が現れた。温和そうで人当たりのよい笑みを浮かべた姿や所作は、旅人仕様の服を身につけていても明らかに階級が上だと分かる。

「世間体もあり、あまりことを大きくしたくなかったので、このような少ない人数ですが……驚かれましたよね。」
「確かに少人数でおこしになるとは予想しておりませんでしたので、些か驚きました。修仁殿、護衛の方々共にご無事で何よりです。」
「魏国と呉国は共に平和な国ですから、この人数でも大丈夫だろうと判断致しました。現に、何も起きず予定よりもかなり早い到着になってしまい、逆にご迷惑をおかけして申し訳ありません。」

 申し訳ないと表情を浮かべる王子と共に、二人の護衛もフードを取って頭を下げた。一人は黒髪短髪の強面の男、そしてもう一人は長い茶髪を束ねた優男風の男。どちらも長身であり、立ち姿も祥真達と同じ騎士を生業とする者のそれだった。

「いえ、予定変更には慣れております故、お迎えの準備は整っておりました。我が王もお待ちしております。どうぞ、お連れ様と共にこちらへ。」
「ありがとうございます。瑛太、琳、行きましょう。」
「はい。」

 大臣の後に続き、王の待つ謁見の間へと入っていく三人を見送った後、祥真と伊吹は互いに小さくため息をついた。

「……どうする、中隊長様。ありゃ、かなりの曲者ぞろいだろ、どう考えても。竜辰様みたいに突然の外出と違って、あっちは公式だ。王族の公式外交を二人で警備なんて、うちじゃ前代未聞、大問題だな。」
「何かあったときはそれなりに対応するだけだ。それに、悠里様も気付いているはずだから、あとで団長が警備の配置を変えるだろ。」

 悠里は年齢こそ三十台後半だが、若くして三大臣の一人にまで登りつめた業績や知識は城内の誰もが評価し尊敬するほどだ。そんな悠里が王族警護及び外交を専門とする左大臣だからこそ自由奔放な竜辰の行動にもいち早く対応できていると言っても過言ではない。
それよりも祥真には気になっていたことが一つだけあった。修仁の奥に控えていた茶髪の男が、やけに自分を見ていた気がしたのだ。
 癖で無意識に悠里に近づく修仁が剣類を所持していないことを確認していたとき、ふと強い視線を感じ、顔を向けると茶髪の男と眼が合った。おそらく相手も悠里や自分を確認していたのだろうと思い、そのときは祥真から視線を外したのだが、それから悠里が部屋へ案内するまでの間に何度も何度も彼の視線が自分に向けられていた、気がした。理由なく来賓をじろじろと見るのは失礼となるため確認できず、断定はできないがおそらく彼で間違いはない。

「そういえば祥真、あの茶髪と知り合いか?何度も何度もお前のことすげぇ見てたぞ。」
「見てたってお前……はぁ、他国の王族に知り合いはなんていないから……。」

 失礼になることをあまり気にとめない例外が存在したおかげで、祥真の予測は確定となった。


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