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ハルの場合C
Bの翌日。(666666リク)


 この世界には番と呼ばれる自分にとって唯一の存在がいる。番の香りはどんな相手でも惹かれずにはいられなくなると言われている。逆らえないほどに。



「おい。起きろ。」
「う……。」

 無理矢理覚醒を促すように体を揺すられ、ハルは眉間に皺を寄せた。温かな手からジャスミンの香りが漂い、自然と鼻をひくつかせる。

 いい匂い。
 つーか、体いてぇ。なんで?何でこんなに……。
 あれ、そういえば……あれ?

「……う、ぁ……わぁーっ!!」
「っ、うるせぇ。」

 香りを胸いっぱい吸い込んでいたハルだったが、その香りの原因を思い出し、顔を真っ赤にして起き上がった。不機嫌そうな声が聞こえ、恐る恐る見下ろせば、あまりにも至近距離で自分を見つめる半裸のユーグと目が合う。
 情事の香りがまだ色濃く残るその姿に、昨晩のユーグの表情や声、自分が出した恥ずかしい言葉が次々に脳裏に過り、ハルは耳まで真っ赤に染めて口をパクパクと開閉した。

「お、おま……おま……ひっ?!」
「?」

 顔を真っ赤にさせて硬直したかと思えば、倒れ込むように再びベッドへ体を横たえ、布団をかき集めて隠れたハルに、流石のユーグも首を傾ける。

「どうした。」
「んでも、な……っ。」

 枕で顔を隠し、ハルはユーグの声に更に体をびくつかせた。

「とりあえず起きろ。オジサン達は朝早くから出かけるって話してたからもういないだろ。」
「……。」
「早く風呂にいった方が……あー……そういうこと。」
「っ!」

 ユーグの香りが僅かに強くなり、ハルは布団を握りしめる手に力を込める。
 布団の上からゆっくりとハルの体を撫でるユーグの手が、徐々に下へと移動していき意図をもってその部分を撫でた。

「さ、触るなっ!」
「一人で出せるか?」
「っ……で、き……る。」

 叫ぶたびに、どろりと流れ落ちる液体に、ハルは唇を噛み締める。
 あの部分に指を入れるなど、どう考えても嫌なのだが、ユーグに触られるよりはましだろう。

「出てけ、よっ。」
「……分かった。」

 布団越しでも、ユーグのため息が聞こえた。それだけで、胸にズキンと痛みが走る。
 すぐに扉が閉まる音が聞こえ、ハルは縮こまるように体を丸めた。

 なんで……なんでよりにもよって……ユーグが番なんだろう。

「うぅ……。」

 全身が痛いのに、それ以上に胸が痛かった。
 きっと自分達は両親のような番にはなれない。
 昔から苦手だったユーグと、今更どうやって関わればいいのか分からないのだ。悪戯に触ってほしくないと思うのに、今こうしてため息と共に手が離れただけで、痛い。
 零れ続ける涙を布団に染み込ませながら、ハルはもう一度唇を噛みしめた。

「噛むな。腫れるだろ。」
「ふぐっ?!」

 強引に顔を上に向かせられたと思うと、唇に指が捻じ込まれる。驚きのあまり、歯を立ててしまい、口内に鉄の味が広がった。

「ふぁ……ふぉ、ふぉめっ……。」
「別にいい。それより……泣きすぎだ。」

 慌てるハルの濡れた目尻に、ユーグの舌が這う。涙を全て舐めとるような仕草に、ハルは顔を真っ赤に染めた。

「ふぉっ、んっ……ゆーふ。」

 舌を親指で擦られる刺激だけで、体が少しずつ熱を帯びていく。何より、近くで感じる番の香りが木天蓼のように、ハルの体から力を奪っていた。


 それからユーグは動けなくなったハルを強引にベッドから引っ張り出し、既に沸されていた湯船へと投げ入れると、自らも湯船へと足を入た。

「せ、狭いって!」
「くっつけばいけるだろ。」
「はぁっ?!」

 結局、後ろから抱きかかえられる形で収まり、ハルは仕方ないといった動作で後ろのユーグに凭れ掛かった。
 僅かにジャスミンの香りが強くなったのだが、お湯の温もりに安堵しているハルが気付くことはない。

 ユーグに髪と身体を殊更丁寧に、しっかりと中まで洗われ、浴室で抵抗し続けたハルは軽くのぼせてしまい、リビングのソファーでぐったりと眠りに落ちた。
 そんなハルの濡れた髪を、愛おしそうに撫でる番の表情は、ハルの良く知る両親の表情と同じそれだった。



終わり

リク:ハル続編。切甘。

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