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シズクの場合:番外
Valentine企画:変わり種編

 2月14日はバレンタイン。街はピンク色に彩られ、やチョコレートの香りに包まれている。
 バレンタインと言えば、チョコレート。手作りを促す雑誌や、有名パティシエによって作成された高級なものから友達へ渡す可愛いものなど様々なものが売られていた。


 まだ番が見つかるものが少ない中学校、高校では、所謂友チョコと呼ばれる可愛さを優先したチョコレートが主流であり、バレンタインを名目に生徒達は友達から気になる相手へとチョコレートを渡していた。

「シズク君、はいチョコレート。」
「くれるの?ありがとう。」
「シズク君、私からもー。」
「えー?いいの?」

 今年のバレンタインは当日は休日ということもあり、金曜日の今日は、放課後ともなれば教室中のあちらこちらでチョコレートの甘い匂いが漂っている。
 単純に友達の関係な生徒だけでなく、色々な意味で仲良くしている生徒から次々チョコレートを貰い、シズクは相手が好むふわりとした穏やかな笑みを浮かべた。
 一人が差し出せば、私も、僕も、とどんどん渡されるチョコレートは、いつの間にかシズクが両手で抱えるほどとなっていた。

「シズクー、相変わらずだなー。一個こっそりくれよ。」
「んー。」

 最後の一人らしい、顔を赤く染めた生徒からチョコレートを貰い終えたシズクの腕に、友人が羨ましそうに手を伸ばす。それを拒否することもなく、シズクは手から離れていくチョコレートをぼんやりと見つめていた。

「あれ?そう言えば相方クン来ないな。」

 笑顔で隠していたはずの、不安を目敏く見抜いた友人の言葉に、チョコレートを抱える腕に僅かに力をこめる。
 教室の時計を見ても、やはりいつも当たり前のように迎えに来ていた時間をもう十分も過ぎていた。遅れるときは、シズクが言わなくても携帯に何かしらの連絡があるのだが、それもない。
 何よりタキが来れば、シズクが一番先に匂いで分かる。

「……。」
「お前がチョコレートを断りもせず貰ってる姿に、さすがに愛想つかしたんじゃねぇの。」
「……。」

 視界の端に移った教室内にいる数少ない番を持つ生徒が、友チョコすらも丁寧に断っている姿に、シズクは無意識に眉間に皺を寄せた。

「まぁ、普通嫌だよな。自分の番が他の奴から嬉しそうにチョコを貰うなんてさー。」

 だんだん険しくなっていくシズクの表情を気にすることなく、友人はもう一つ遠慮の欠片もなくチョコレートを奪っていく。机の上には既に空になった箱が置かれていた。

「そういえば、お前このチョコいつ貰ったんだ?高そうじゃん。」
「……あー欲しいなら他のあげる。ほらっ。」
「うわっ?!」

 シズクの鞄に入っていたチョコレートへと手を伸ばそうとした友人に、貰ったチョコレートを全て渡すと、シズクは鞄を握りしめて教室を飛び出した。
 行きたくない、と思うのに、足が自然と向かうのは一つ下の学年の教室だ。

 何で迎えに来ない。
 地味男のくせに。
 パッとしない、従順さしか取り柄のない男のくせに。

 苛立つ気持ちを必死に抑えながら、あと少しでタキの教室に着く、というその時だった。
 ふわっと鼻腔に届いた、甘い甘い蜂蜜の匂い。番の匂いに慌てて足を止めたシズクの目に映ったのは、顔色の悪い生徒を抱えて教室を出ようとしていたタキの姿だった。
 タキの手がその生徒の肩に触れている。その光景を見ただけで、シズクは胸が締め付けられるような痛みを感じた。
 平凡な顔に珍しく驚いた表情を浮かばせたタキに、シズクは慌てていつもの笑顔を浮かべる。

「あー、そういうこと?ならいいやー。」
「え?……あ、これは。」
「言い訳は聞かない主義なんでー。」

 へらり、と笑い、何か伝えようとするタキの言葉を遮った。これ以上何かを見たら、本気で叫びそうだったからだ。

 俺の番なのに。
 俺のものなのに。
 なんで俺以外の奴を優先してんの。
 なんで迎えに来ねーの。
 せっかく、今日……。

 鞄を握る手に力を込めながら、笑顔だけは絶やさないよう必死に顔に意識を集中させる。

「ばいばーい。」

 まだ何か話そうと口を開いたタキを再び遮り、シズクはこれ以上その光景を見ないように踵を返した。
 何も聞かないよう、足早に廊下を抜け、いつもの空き教室へと逃げ込む。
 タキの匂いがしないことを確認すると、力任せに机を蹴り飛ばした。
 激しい音が教室に響き、再び静寂に包まれるとシズクは床へとへたり込んだ。握りしめていた鞄を壁へ投げつけようとしたとき、甘い匂いがシズクの手を止めた。




 ズブッ、グブッグチュッ

「んっ、っ、あ、この、バカッ……んっ。」
「はっ、だから、ごか……くっ。」
「だま、れっ、ふっ、ぁ、んんっ。」

 制服を乱し、床に寝転ぶタキに跨り、喋ることすら許さないと何度も激しくシズクは腰を振る。適当に解しただけの場所でタキの大きな熱を受け入れるのは本当に辛かった。切れていないのは日頃の行為の多さのせいか、それともタキの先走りのせいか分からない。
 痛みのせいだけではない、涙が次から次へと頬を零れ、強く握りしめたタキのシャツへと染み込んでいった。

「せん、ぱっ……無理、はっ……んっ。」
「はや、く……ぅ、イけ、バカッ……、出せ、よっ、はぁっ。」

 自分の快感ではなく、タキの快感だけを誘い動き続けるシズク。タキが動きを抑えようと伸ばした腕を叩き落とし、更に激しく上下した。

「っ、う……!」
「んっ、で、て……。」

 射精する瞬間、濃くなる蜂蜜の匂いに涙が更に溢れた。快感によるものではない、苦しそうな泣き顔に、タキは乱暴に引きずり出された射精後の怠さに耐え、無理矢理体を起こす。慌てるシズクを逃げないように抱きしめると、宥めるように汗ばむ首筋へと口付け、背中を撫でた。

「はぁっ……、遅れた、のはすいません。友達がチョコの食べ過ぎで、気分が悪くなって……。」
「んんっ……言い訳、は。」
「あと、シズク先輩に……チョコ、渡した……って、聞こえて、俺……準備してなくて。」

 自分の胸に顔を押し付け、まだ少し嗚咽を零すシズクをタキは更に強く抱きしめる。蜂蜜の匂いに包まれ、ようやく落ち着いてきたシズクは、胸に顔を埋めたまま身体の力を抜いてタキに体を預けた。

「……俺、チョコレート苦手なんだよねー。つーか嫌い?」
「え?でも、貰ってたんじゃ……。」
「んー。でも、いつも他の奴に渡してるからなー。」

 驚いた声から逃げるように、シズクは体を離そうとタキの胸に手を置く。冷静になればなるほど、衝動のまま自分がしてしまった行為が恥ずかしくて、情けなくて、いたたまれなかった。
 しかしその手は後輩の大きな手に包まれ、体が床へと倒される。

「お、おい……。」
「……じゃあ、先輩は好きでもないものを笑顔で貰ってたんですね。」
「んぁっ、ちょっ、タキッ!……っあ。」

 繋がったままの体をより密着させられ、中のしこりに熱いペニスを押し付けられた。その刺激で、シズクはまだ自分が射精していないことを思い出す。批難しようと自分に覆いかぶさる番を睨み付けたが、平凡な男の瞳に強い光が宿っていることに気付き、思わず中の熱を締め付けた。



 ズブッ、グチュッ、ズプッ、ヌプッ

「ひっ、あっ、あぁっ、奥当た、んんっ!」
「ここ、好きですね。」
「ち、がっ……うあぁっ、や、あぅ、ぁ……グ、リってやめっ!」

 一度出された白濁が泡立ち、タキが腰を打ち付けるたびに厭らしい音を響かせる。腸壁に無理矢理擦り付けられる熱に、シズクは目尻から数十分前とは違う涙を零し続けた。
 逃げようと動けば、同じようにタキが迫ってくる。腰を上に向けるような姿勢で挿入され、深い場所まで侵略される恐怖と快感に、シズクはもはや口を閉じることさえできず、甘い声が漏れた。

 グププッ、パンッパンッパンッ

「んーっ、ああぁっ、やだぁっ!」
「触らなくても、イけ、そう?」

 痙攣する腰を撫で、タキは触らずとも限界まで立ち上がり白濁混じりの液を腹へと零すシズクのペニスに軽く触れる。

「ひっ!さ、わ……れよぉっ。」

 微かな刺激でさえ、シズクは全身を震わせ弱く首を振った。教室に充満する大切な番の匂いに、タキは満足そうに微笑むとしっかり覚えたシズクの弱い部分を丹念に愛撫し始めた。

「イく、っ、あぁっ、イくっ!」
「後ろだけは、また、今度です、ねっ、はぁっ。」

 前と後、同時に与えられる甘く、強い刺激に、シズクは腰と喉を反らして精液を吐き出した。





「……ぱい。」
「……んー。」
「……ズク先輩。」
「……ん、んっ……ふわぁっ……いっ、た。」

 優しく頭を撫でられ、シズクはまだ倦怠感の残る体をゆっくりと起こす。その行動を支えるように伸ばされた腕をペシッと叩いて、痛みの原因を睨み付けた。

「大丈夫……じゃないですね。」
「誰のせいだよ、誰の。」
「すいません……。」

 体を動かすたびにあちこちに痛みが走る。床で寝ていたのも不味かったのだろう。
 当たり前のように綺麗に制服を着せられた体に、小さく舌打ちする。

「お前なー、調子に乗るなよー。」
「すいません……。」
「はぁ……あ。」
「え?」

 ふらつきながら、ゆっくり立ち上がろうとした瞬間、床に放り投げられたままだった鞄に気が付いた。シズクの視線に気が付いたタキが、何も言わずとも鞄をシズクのもとへと持ってくる。
 鞄をひったくり、中から乱暴に潰れた箱を取り出すと、そのままタキへと投げつけた。体に力が入らないため、投げつけるというより優しく渡すような形になってしまったのは不本意だが。

「……え、これ。」
「んー、疲れた。体痛い。家まで送って。」
「も、もちろん!」

 相変わらず歩けるようになるまでタキを待たせ、無事に家に着いたのは夜中。
 渡した箱の中身が無事かどうかは分からない。ただ、タキの匂いが強くなったから、喜んでくれたことだけは確かだった。



「なぁ、シズク。お前相方クンにチョコ渡したの?」
「んー?まぁ、ね。」


終わり


リクエスト

@シズクとタキ
A嫉妬
Bからの甘々
C箱の中身はビターチョコ

ありがとうございました。



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