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レジアの場合:番外
Valentine企画:定番編

 2月14日はバレンタイン。街はピンク色に彩られ、やチョコレートの香りに包まれている。
 バレンタインと言えば、チョコレート。手作りを促す雑誌や、有名パティシエによって作成された高級なものから友達へ渡す可愛いものなど様々なものが売られていた。


 この時期のチョコレート専門店は番へのプレゼントを選ぶもの達で溢れかえっていた。その中でも異様な雰囲気を放っていたのはショーケースに飾られているケーキをジッと見つめているレジア。
 まわりも一応気にしないように視線を反らしてはいるものの、強面男が見つめているのは、皆が気になる限定のフォンダンショコラ。彼を差し置いて購入するなどできるはずもなく、買うなら買って早くその前からどいてほしいというのが一致した意見だろう。

「……。」

 一方レジアも真剣に悩んでいた。顔に似合わず、レジアは甘い物が大好きで、この時期になると様々な種類のお菓子やケーキが発売されるため、自然と浮足立つ。特に雑誌でこっそり確認していた目の前のフォンダンショコラは一目ぼれに近いほどの興味を抱いていた。
 普段であれば、なんのためらいもなく自分用に購入するだろう。そんなレジアが悩んでいるのは、数日前に言われた番の言葉のせいだった。

『バレンタインなんてチョコレート会社の策略だよね。』

 テレビから流れるバレンタインチョコを選ぶ人々の映像を見て、つまらなそうに呟かれたその言葉が、未だに頭から離れない。

「……。」

 目の前のケーキはほしい。喉から手が出るほどほしい。問題はその数だった。せっかくだから、自分とセブの二人分を買って二人で食べたい気持ちもあるが、興味のなさそうなセブにチョコレートをあげて策略にのった自分を幻滅されるのも辛い。

「……。」

 数十分悩みに悩んだ末、ようやく自分達も購入できると安心する客に背中を見守られ店を出た。





 家に帰る、と言ってもレジアが住んでいるのは以前のアパートではない。キーコードと指紋、網膜認証で開く厳重な扉に守られた高層マンションだ。指紋認証する専用直通のエレベーターに乗り、フロアに降りると玄関の前に明らかにそういう関係のボディーガードが、明らかに年下であるレジアに頭を下げる。
 未だにその行動に戸惑いながら、レジアはセブと二人で暮らす部屋の扉へと向かった。
 自分の家が何個入るのか分からないほど広いリビングを通り過ぎ、いつの間にか大きくなっている冷蔵庫を開ければ、様々な食材が準備されている。買い物に行かずとも、欲しいものを書いて扉に貼っておけばいつの間にか補充されているのだから怖い。

「今日は鰤大根と……。」

 仕事がどれほど忙しくても、セブは必ず一度は家に帰ってくる。そのため、レジアは連絡がなくても二人分の食事を準備していた。すぐに外食へ出かけようとするセブに、レジアが初めて料理を作ったときの、ぽかんとした顔は今思い出しても面白い。

『旨い。』

 鋭い印象を受ける一重が、食事のときには僅かに目尻が下がる。本当に美味しいそうに食事を平らげてくれるセブを見るのがレジアもいつの間にか好きになっていた。
 料理の下拵えが終わり、一息ついた頃。レジアは携帯に着信履歴があったことに気が付いた。料理に夢中になるあまり気付かなかったらしい。

「……もう帰ってくんのか。珍しいな。」

 二件の着信履歴と一件のメール。メールの内容は電話に出なかった理由の返信を請求するものと、今日は夕方に帰るというものだった。
 面倒臭いと思いながら、レジアは律儀にメールに返信する。番となってから、この束縛が嫌で嫌で、例のバーで知り合ったバーテンダーに相談したことがあるが、その番も同じだと分かってからは、もう諦めていた。
 体にGPS機能付きの装飾品を付けられないだけ、まだマシだと実感したのもある。

「あいつの好きなものもついでに作るか。」

 今日の夕食のおかずに生姜焼きを追加し、ある程度作り終えた頃、本来の部屋の主が帰ってきた。

「ただいま、レジア。」
「おかえり。」

 黒いロングコートを脱ぐセブからそれを貰い、煙草の匂いを消すための消臭剤を振りかけてクローゼットへ片付ける。
 風呂よりも食事が先だと分かっているため、あえて何も聞かずに、味噌汁を温め始めた。

「なんか飲むか?」
「自分で出すよ。」

 バーでは洒落たカクテルや高級なウィスキーを好むくせに、セブが家で飲むのは大抵高級ビールだ。冷蔵庫から冷えたそれを自分でグラスに注ぎ、一気に飲み干す。
 もちろん、すでにつまみになるチーズや漬物はテーブルに並べてあったため、セブは次々と摘まんではビールを開けていく。
 本人曰く、上司の付き合いで飲んでいたら自然と強くなったらしい。初めてその光景を見たときは驚いたが、今では何も思わなくなった。

「今日は何?」
「鰤大根、山菜の炊き込みご飯、サラダ、ほうれん草の胡麻和え、ブタの生姜焼き。」
「豪華だね。んー、いい匂い。」

 次々と出てくる湯気のたつ料理を長め、セブは目を細める。

「いただきます。」
「ん。」

 レジアも席に着いたところで、ようやくセブも料理に箸を伸ばした。先にビールを一本あけているにも関わらず、どんどん料理を腹に収めていく光景は、レジアも見ていて心地よい。
 特に今日の炊き込みご飯は自分でも上出来な美味しさだった。

 食べ終わったら、外で待機している部下におにぎりの差し入れでもするかな。

 実はそのためにこっそり大量に作った炊き込みご飯の山菜の香りを噛み締める。互いにあまり話もせず、黙々とご飯を食べ終え、食器類をシンクへと移動させた後、レジアは再び冷蔵庫を開けた。
 店で言われた通り、レンジで数秒間温め、開けた途端にふわりと香った甘い匂いに思わず表情を緩める。

 ご飯と共にビールを飲み終えたセブ用、と自分用に珈琲を淹れ、フォンダンショコラが乗せられた皿を自分の前へと置いた。

「……は?」
「珈琲飲むよな?」
「……飲むけど。」

 普段と変わりない行動にも関わらず、僅かに戸惑うセブを不審に思いながら、レジアは珈琲を一口飲み、まだ温かなフォンダンショコラへとフォークを入れた。よく見かけるフォンダンショコラとは違い、溶けたチョコレートがたっぷり皿を流れ、その光景にレジアは唇を舐める。
 溶けたチョコレートを纏わせたケーキを一口頬張り、アクセントにオレンジの風味があるチョコレートの味に満足そうに息を吐いた。
 もう一口、とフォークを伸ばしたレジアだったが、腕を強く掴む手によりそれは阻止される。

「え?何。」
「……それはこっちの台詞なんだけどな。」
「は?」

 レジアの腕を掴んだのはもちろんセブ。抗議しようと視線を向けたレジアだったが、セブの表情と全身から香るパインの香りに、表情が引き攣った。

「な、何?」
「俺にはないんだ。」
「……え?た、食べる?」
「……。」

 無言のセブに反して一層強くなるパインの香り。腕を離された途端、逃げなないと、と無意識に動いたレジアだが、すぐに近づいたセブに捕まり、床へと押し倒された。

「何すんだよっ!」
「……分からない?だったら、こっちで勝手に貰うからいいよ。」
「え?」

 馬乗りされ、暴れるレジアに、セブは机から何かを取る仕草をすると、強引に服を捲り上げ露わになった腹へとそれを塗り付ける。
 その匂いで正体に気が付いたレジアは目を見開いた。

「っ、それっ!」
「美味しそうだね。食べるならこっちの方がいい。」
「んっ。」

 濡れた指で乳首をなぞられ、レジアの口から甘い声が漏れる。慌てて口を腕で塞ぐも、弄り続ける指により次々と声が零れていった。

「美味しい。」
「んぁっ!」

 チョコレートが塗られた乳首を、拭うように何度も舐められ、その度に腹筋がプルプルと震える。その筋に沿うようにセブの指がチョコレートを塗り付け、再び舐めとる。もどかしい刺激にレジアは内股を自分で擦り付けた。しかし、セブがそこを触ることはなく、上着を脱がされ、首筋、脇、鎖骨など上半身ばかりをいたぶられる。

「はっ……はぁっ、セブッ、やっ、もうやめ……っ。」
「良い匂い。オレンジとチョコレートの匂いは本当に合うよね。」

 首筋をべろっと舐められ、レジアは堪らず涙を零し唇を噛みしめた。

「レジア、知ってた?レジアはオレンジの匂いがするんだよ。まさか自分の香りがするチョコレートを選ぶなんてね。」
「っ?!」

 レジアが自分の匂いを感じることはない。今まで言われたこともないため、まさか同じ香りを選んでいたなんて思ってもいなかった。
 しかし、それ以前に、レジアにはセブに言わなければいけないことがある。

「俺にくれなかったお仕置き。ちゃんと全部味わってあげるよ。」
「……い、らないって……。」
「ん?」
「お、お前……チョコは会社の、策略、っ、って……。」

 レジアはセブがバレンタインのチョコレートに興味がないと思っていた。だから、悩んで悩んで悩んだ挙句に、嫌がれるのが怖くて自分用に一つだけ買ったのだ。こんなことになるなら二つ買って一緒に食べたのに。
 セブの匂いに、熱の高まった体で必死に訴えるレジア。その言葉を聞いて、セブは一重の瞳を細めた。

「そう言えば、レジアはきっと買わないから。こうやって“お仕置き”できるだろ?」
「っ!!この性悪野郎っ!」

 満足そうなセブを、レジアは渾身の力で殴ろうと手を上げたが、いとも簡単に止められ、逆に体を更に押さえつけられる。

「香りが強くなった……そんなにお仕置きしてほしいんだね。」
「ひっ……。」

 実は既にぐちゃぐちゃになっていた股間を膝でグリッと押えられ、レジアの身体が強張った。それでも睨み付ける迫力のある強面顔に、セブは楽しそうに唇を寄せる。

 チョコレートとオレンジとパインの香りに充満した部屋で、レジアの鳴き声が響き続いていたが、扉の向こうは静かな闇に包まれたままだった。


終わり


リクエスト

@レジアとセブ
Aフォンダンショコラ
Bチョコレートプレイ
Cドロドロ甘々

ありがとうございました。


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あきゅろす。
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