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テノの場合:番外
Christmas企画:変わり種編

 12月24日はクリスマスイブ。街は赤や緑のクリスマスカラー、そして綺麗なネオンに彩られてる。

 街中がクリスマスムードで賑わっており、各自に予約したケーキやチキンを手に笑っている。食べやすいシンプルなケーキを受け取ったテノは、自宅へ着くと緊張した面持ちで冷蔵庫へとしまった。

「……はぁ。」

 テノの部屋にある小さな炬燵の上には、二人分の食器と共に、好きだと話していたポテトサラダ、テノが好きな人参シリシリが並べてある。台所の鍋の中にはビーフシチューも準備済みだ。
 あとは、ナズナが来るのを待つだけ。頬を炬燵に付けながら、テノはまたため息をついた。

『俺は言ったよなっ。禁煙できなきゃヤらねぇって。俺はっ……俺はしたいんだよっ。でも、初めてヤるのに、大ッ嫌いな煙草の匂いが混じってるなんて嫌なんだ。あんたの、あんたの匂いだけがいいんだ……なのにっ。』

 脳裏に浮かんだ盛大な台詞に、テノは顔を真っ赤に染める。恥かしすぎて、炬燵布団に顔をグリグリ当てた。
 一際派手に喧嘩した後、ナズナの仕事が忙しくなり、今日の約束をした以来会えていないのだ。

『これからは本気で禁煙する。』

 もう何度目か分からない約束だったが、そう誓ってくれたナズナを信じて、テノは今日まで色々と準備をしていた。
 自分以外と経験がある、と正直に話してくれたナズナ。多少の嫉妬もあったが、初めて抱かれるときに面倒だと思われるのが嫌で、四苦八苦しながら始めた準備。最初は違和感しかなかったが、今日に至ってはナズナに会える嬉しさも相まって、後ろの刺激で感じてしまい、出してしまった。

「……うーっ。」

 思い出すだけで、また一段と熱が集まる体を他の熱で誤魔化そうと、炬燵へ潜り込もうとしたそのときだった。

 ピンポーン

「……っ。」

 訪問者など考えなくても分かる。気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと歩き、覗き穴から相手を確認すると、これまたゆっくり扉を開いた。

「よ。」
「ッス。」

 隣に住んでいるにも関わらず、久しぶりにみたナズナの顔、そして珈琲の香りに、テノは無意識に口元を綻ばせる。

「悪い、遅くなった。」
「だ、大丈夫ッス。……あれ?家に帰ったんッスね。」
「あぁ。周りの奴らのせいで臭くなってたからな。」

 ナズナが来るときは、大抵仕事帰りに直接だった。だから黒のパーカーにジーンズというラフな私服姿を見るのは本当に珍しい。そういうテノも、普段は部屋着でもあるジャージ姿、今日はカーキーニットとチノパンなのでお互い様らしく、ナズナの視線が一瞬だけ上下に動いた。
 わざわざ匂いを消してきたのか、と思わずくんくん、と鼻をひくつかせるテノに、ナズナは笑いながら抱きしめた。

「ぎゃっ!」
「んな警戒しなくたって、煙草の臭いしねぇだろ。」
「し、しないッス!だから、離してっ。」

 驚きでピクピク動くうさ耳をはむっと食べられ、テノは暴れるようにナズナの腕の中から逃れる。
 そんなテノの姿を笑いながら、ナズナは先に勝手知ったる顔で炬燵の待つリビングへと向かった。

「はー、あったけぇ。やっぱり炬燵はいいなー。」
「……おっさんみたいッス。」
「うるせぇな。お前も四捨五入すりゃ俺と同じ三十路だ三十路。」
「ははっ、何それ。」

 炬燵に入った途端、ピンと立たせていた黒の犬耳が垂れる。その姿に笑いながら、テノはビーフシチューを温めなおした。食事の準備をしながら、もう一度気づかれないようにくんくん、と鼻を動かす。

 やっぱり、全然匂いがしない。

 先に渡したビールを自分で注ぎ、飲み始めてしまったナズナを余所に、テノはせっせと食事の準備を進めた。温めたビーフシチューとトースターで焼いたパン。お酒のつまみとして、生ハムとチーズの盛り合わせ。一人暮らし様に買っていた炬燵の上はたちまち料理で溢れかえった。

「おー、うまそ。全部テノが作ったのか?」
「まぁ。昨日休みだったんで。」

 嬉しそうにチーズを摘まむナズナを見ながら、テノは既に空いていたグラスと自分のグラスにビールを注いだ。

「じゃ、乾杯。」
「……先飲んでたッスよね?」
「あー、まぁまぁ。細かいことはいいだろ。」

 カチン、とグラスを鳴らし、テノもビールを飲み干す。年末はどうしても先輩達と飲む機会が増え、美味しいお酒とも出会うが、やはり自宅で少しだけ高級なビールを飲むのも堪らなく美味しい。

「旨いな、コレ。」
「一応、美味しいって評判のレシピにしたッスから。」

 隠し味にヨーグルトとツナの入ったポテトサラダを美味しそうに食べるナズナに、テノは自慢げに笑った。
 それから一通り食事を食べ終え、三本目の瓶ビールを空けたナズナの前に、切り分けたチーズケーキを差し出す。

「ん?サンタが乗ってる奴とかじゃねぇんだ?」
「男二人で食べきれるなら買ってきたッスけど。」
「あー無理無理。俺、甘すぎるの苦手だし。」
「そう言うと思って、甘さ控えめの奴ッス。」
「さすが、俺の嫁だなぁ。」
「っ!」

 ビーフシチューを二杯、ポテトサラダもおかわりしたと言うのに、ナズナは躊躇いなくチーズケーキを口にした。自然と言われた内容に、テノは持っていたフォークをガチャンと落とす。

「ははっ、動揺しすぎだ、馬鹿。」
「……っ。」

 向かいから伸ばされた大きな手で耳ごとガシガシ撫でられ、テノは更に顔を赤く染めた。
 俯いたまま固まるテノに、ナズナの手は頭から耳、顎へと伸びる。

「おい、テノ。」
「……。」

 手が離れ、動く気配が伝わった。テノが恐る恐る顔を上げれば、予想通りそこにナズナの姿はない。

「テノ。」
「っ!」

 横からギュッと抱きしめられ、珈琲の香りがテノを包み込む。一気に上昇した体温と共に、テノの香りもナズナに届いていることは間違いないだろう。

「はぁ、やっと触れた。」

 腰に回された腕に更に力が込められる。忙しなく動くうさ耳にナズナの低い声と共に熱い息が触れ、テノの顔は更に熱くなった。

「テノ。」

 自分を呼ぶ声がこんなにも甘いなんて。
 煙草で隠されていないナズナの匂いがこんなにも体を熱くさせるなんて。

 体を強張らせたまま動けないテノの赤い首筋。ビールの影響だけではないと知っていたナズナは、誘われるがまま、そこへと舌を伸ばした。

「ぎゃっ!」
「……お前なぁ。もっと色気のある声だせよ。」

 舐められた部分から感じた、ビリビリとした電流が走るような刺激にテノが思わず声を上げれば、ナズナの苦笑した声が届く。
 その反応に、テノは唇を噛みしめた。

「……ど、どうせ、俺には他の人みたいな色気なんてないッス。」
「誰とも比べてなんかねぇよ。俺はお前の色気のある声が聞きたいだけだ。」
「うひっ!」

 ガブッと鎖骨部分を噛まれ、歯型の付いた部分を今度はじっくりと舐め続け、再び噛まれる。それが何度も繰り返され、左の鎖骨に真っ赤な歯型が刻まれた頃、テノの身体は炬燵から離れ、カーペットに押し倒されていた。

「っ、んぁ。」
「ん、いい声。」

 大きすぎるキスマークを満足そうに舐めたナズナは、テノから零れた甘い声に目を細める。
 柔らかい薄茶色の髪と同じ色のうさ耳に唇を寄せ、爽やかな紅茶の匂いを振りまく番へと囁いた。

「禁煙のご褒美、くれるよな?」
「ぁ……ん。」

 ナズナの言葉に、僅かに涙で潤んでいた瞳が、期待に揺れる。
 怖々とだが確実に首元へ伸ばされた手に促されるように、ナズナはテノに覆いかぶさり、薄く開いた唇に舌を滑り込ませた。

「ん、ぅ……ふっ、ん。」

 久しぶりに味わう番の口内に、互いの香りが更に強くなる。どちらともなく、舌を絡ませ、下半身も押し付け合う。
 ズボン越しでも分かる、ナズナの硬い熱に、テノは自ら腰を浮かせた。

「ん。エロい動きすんな。」
「っ、し、してないッス!」

 唇を離した途端、聞こえた鼻から抜けた甘いナズナの声に、テノは眩暈を覚える。
 自分より明らかに年上のナズナが漏らす、情事の声。そんな馬鹿な事を考えるだけで、散々準備したあの部分が疼いた。
 ナズナの大きな手がニットの中に伸びたそのとき。

 ピリリリッ

「……。」
「……。」

 ピリリリッ、ピリリリッ

「……な、鳴ってるッス。」
「そうだな。」

 テレビすらつけていなかった部屋に響き渡るのは、ナズナのズボンから聞こえる携帯の着信音。しかし、ナズナの手は止まることなくテノの腰をまさぐっていた。

 ピリリリッ、ピリリリッ、ピリリリッ

「で、出たほうがいいんじゃ……。」
「っ、クソッ!誰だ、んなときにっ。」

 一向に鳴りやまない携帯に、流石にテノの興奮も落ち着いていく。香りが薄れたのが分かったのか、ナズナは舌打ちをして鳴り続ける携帯を取り出し玄関先へと向かった。

「はぁ?!今更何を言い出しやがる。んなことは、最初から向こうに伝えてあっただろ。あぁ?!ふざけんな、こっちはもう酒飲んでんだよ。」

 恐ろしくドスの聞いた低い声が嫌でもテノの耳に届く。会話の内容から、仕事でトラブルがあったらしい。時刻は八時を過ぎており、こんな時間にかけてくる程だから、よっぽどのことなのだろう。
 ちらっとナズナの視線がテノへと移る。

「い、行ってきた方がいいんじゃないッスか?俺、待ってるんで。」
「…………あー、分かった。くそっ、さっさと迎えに来い!」

 ガリガリと黒髪を掻きむしった後、ナズナは乱暴に電話を切った。そのまま大股で炬燵に入っていたテノへと近づき、ギュッと抱きしめる。

「本当に悪い。すぐ戻るから。」
「ん。大丈夫ッス。」

 乱雑に見えても、実はナズナがとても仕事熱心であることはテノもちゃんと理解していた。
 そうでなければ、能力重視なセイリュ国の国民には認められないのだ。忙しく働けること、それは周りに認められている証拠でもある。
 そしてなにより、今日も明日も平日なのだから仕方ない。

「いってらっしゃい。」
「……あ、あぁ。」

 落胆しながら出ていくナズナをテノは優しく見送った。
 そんなテノの姿に味を占めたナズナが二人で暮らせるアパートを探し始めるのも、同僚が吸った煙草の匂いを勘違いしたテノが日付を跨いで帰ってきたナズナを部屋から追い出すのも、近い未来の話。

終わり


リクエスト

@テノからナズナへ
A禁煙のご褒美(自分)
Bだがしかし

ありがとうございました。

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