エイジの場合:番外
Christmas企画:定番編
12月24日はクリスマスイブ。街は赤や緑のクリスマスカラー、そして綺麗なネオンに彩られてる。
街中がクリスマスムードに賑わっている頃、エイジは母親に頼まれた買い物を終えて、家へと向かっていた。
エイジ家では毎年クリスマスは家族で祝うのが定番。今年も母親が朝から楽しそうに料理の下拵えをして仕事へと出かけて行った。
「フンフンフーン、フンフンフーン、鈴がーなるー。」
大好きな母親の美味しい料理。エイジの気分も自然と高揚していた。あまり歌うこともない、鼻歌も自然と口にしてしまう。
エレベーターから出て、あと少しで家に着くと思ったそのとき。冬休みに入ってから嗅ぐ機会は絶対にないと思っていた花の香りがした。
「……え?なんで……。」
自分の家の前で壁に凭れ掛かっていたミナトに、弾んでいた足も止まり、エイジの眉間には無意識に皺が寄る。
エイジがミナトに気付いたのと同時に、ミナトも気づいたらしく、ゆっくりと視線をエイジへと向けた。
ベージュのステンカラーコートにグレーのパーカー、白のTシャツに黒のスキニーパンツ、スモークグリーンのスニーカーといった制服とは違う、少し大人っぽい姿はとても似合っており、一瞬だけ胸が高鳴る。
同時に、ケーブル編みの白ニットにジーパン、カーキーのマフラーといった子供っぽい恰好の自分に恥ずかしさも覚えた。
「なんでいるの?」
「ちょっと。」
ちょっと、とだけ話し、ミナトは帰る様子がない。さすがに二人でずっと立っているわけにも行かず、ミナトはポケットから鍵を取り出した。
家の扉を開ければ、ミナトも当たり前のように入ってこようとする。
「な、何?」
「ちょっと。お邪魔します。」
慌てるエイジを余所に、ミナトはエイジを促しながら自分もちゃっかりリビングへとお邪魔した。
きょろきょろと部屋を見渡され、エイジは落ち着かなくなり、荷物を冷蔵庫や所定の補充場所へ入れると、二人分の珈琲を淹れ始める。
何かをしていれば、ミナトを意識しなくていいと思ったのだ。
「なぁ、部屋は?」
「へ、部屋?」
「エイジの。」
「そ、そっちの扉だけど。」
「ふーん。」
お菓子も出そうか、と台所の棚を開けていたエイジはミナトの質問に自然と答える。しかし、扉が開く音が聞こえ、ようやくミナトが自分の部屋に入ったことに気付いた。
「ちょ、ちょっと!勝手に入るなよっ。」
「まぁまぁ。」
「何が……わぁっ。」
今日のミナトは普段の強引さは変わらないが、何かおかしい。
慌てて部屋から追い出そうと掴んだ腕を逆に引っ張られ、エイジはミナトと共にベッドに凭れ掛かる形で座らされた。立ち上がろうとしても腕を引っ張るミナトに邪魔される。
「本当に、何がしたいんだよ。」
「……はい、これ。」
「え?何が……ん?」
渡されたのは赤と緑のクリスマスカラーの包み。渡された格好のまま戸惑っていると、更に包みを胸へ押し付けられた。
「食べろ。」
「……ぼ、僕に食べ物渡せば機嫌がよくなるとか思ってるんだ。」
「はぁ?別にそんなこと思ってねぇよ。だから、さっさと開けて食べろって!」
「っ!い、いらないっ。」
「……っ。」
無理矢理食べさせようとするミナトに、エイジも悔しくて押し付けられていた袋を、顔を伏せて逆に押し返す。そのとき袋の中の何かが折れた感覚が手に届いた。慌てて視線をミナトへ戻せば、そこには酷く傷ついた表情を浮かべた姿があった。
「あ……ご、ごめんなさ……。」
「……いや、俺も悪かった。そもそもお前が好きかも分からず作ったし……。」
「作った?」
「あ!ち、違う。間違えた。つーか、食べねぇなら俺が貰う。返せ。」
「っ……も、もらったもん。食べるもんっ。」
先程とは正反対に、今度は袋を奪い取ろうとするミナトに背を向けてエイジは袋を開く。そこにはクリスマスでよく見る人形の姿をしたクッキーが詰め込まれていた。
いくつか折れて形が崩れているが、所どころいびつなアイシングはとても買ってきたものとは思えない。欠けたクッキーを怖々口に運んだエイジは、ほんのりとした甘さに口端を緩ませた。
「……あ、美味しい。」
「……っ。」
そのふくよかな体形通り、エイジはいまだに食べることが好きだ。とくに甘いものには目がない。ただ、ミナトと出会ってからは、勝手にくっついてくるときにエイジの体形を「やわらかい」や「気持ちいい」など揶揄ってくるので、あまり食べないようにしていた。
だからこそ、久しぶりの甘味に幸せな気分になる。食べる手が止まらないエイジは、自分がどれだけ魅力的な香りを漂わせているのか、隣にいるミナトが拳を握りしめて耐えているのか気付いていなかった。
「……が、我慢だ俺。ここで襲ったらマジで嫌われる……。」
「あ、ミナトも食べる?」
「……っ!」
何かを呟いたミナトに、はい、とクッキーを差し出したエイジだったが、自分に向けられた視線があまりに強く、部屋中に香るミナトの甘い花の匂いに、その顔を一気に朱へ染める。
逃げそうになったエイジの手を慌てて掴み、ミナトはゆっくりと口を開けて震える指からクッキーを奪った。
「ん、旨い。」
「……。」
「はは、顔赤すぎ。可愛いなー。」
「……うー。」
お菓子と同じくらい甘い甘いミナトの雰囲気に、エイジは唇を噛んだ。思い出すのはもちろん昔のミナトの言葉。
「……嘘つき。ぼ、僕のこと嫌なくせに……。」
「嫌いじゃねぇ。ちゃんと……俺は……エイジが好きだ。」
「え?」
初めて聞いた告白に、エイジが顔を上げた途端、今までに経験したことがないくらいの近さにミナトの顔があった。
「好きだ。ちゃんと信じろ。」
「ち、近……っ!」
近い、と思っていた距離はどんどん縮められ、唇に自分以外の熱が触れる。
キスをしているのだと気づいたエイジの頬は更に真っ赤になった。
「エーちゃん?お友達来てるの?」
「っ!う、うんっ、そう。でももう帰るって!」
「は?……お、お邪魔しました。」
二人だけだった空間に、突如響いたのはエイジの母親の声だった。
その瞬間、エイジは全力でミナトを押しのけ、エイジの言葉に納得がいかないと首を傾けたミナトに無言の圧力をかける。母親の手前、見送りに出たものの、ミナトの顔を見ることはできなかった。
その夜、エイジ家恒例のクリスマスパーティーで心ここにあらずなエイジに、家族は一同に不審がるのであった。
終わり
リクエストキーワード
@ミナトからエイジへ
A手作りお菓子
Bちょっと誤解
Cからラブラブ?
ありがとうございました。
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