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アキラの場合A
@の続編。(88888リク)


 この世界には番と呼ばれる自分にとって唯一の存在がいる。その存在は、何よりも愛おしいと言われている。



「紹介するね。この子がアキラ。俺の番。」
「……。」
「こっちの茶髪がハル。そしてこっちの黒髪がユーグ。」
「……。」
「よろしく。」

 放課後、いきなり教室に現れたと思った途端、なかば強引に連れてこられたのは学校近くのファミレスだった。
 カヅキだけだと思っていたそこには、アキラをジッと睨んでいる茶髪の男と、茶髪の男とはかなり離れた場所に座る黒髪の不愛想な男。
 明らかに上級生だと分かる二人に、アキラは緊張のあまり顔を下へと向けた。

「ハル、俺の大事なアキラを怖がらせないでよ。」
「は?そいつが勝手にビビってるだけだろ。つーか挨拶くらいしろよ。」
「っ……ア、アキラ、です。」

 視線を外していても嫌と言うほど分かる強い視線や声色に、アキラは震える唇で必死に名乗る。その声は相手に聞こえているかいないか分からないほどか細いものだった。

「おい、ハル。気に食わないからって威圧するなよ。」
「はぁっ?!どこでいつ誰が誰を威圧したっつーんだよ!!あぁ?」

 ユーグの言葉に、ハルが突然立ち上がり大声をあげる。ファミレスにいた人々が一斉にこちらへと視線を移すが、ハルはそれらを睨み返し、ざわつきを一瞬にして沈めた。
 あまり経験することのない場面に、アキラの緊張が更に高まる。

 なんで俺がこんな目に。

 本音を言えばすぐにでも逃げたいのだが、机の下でアキラの手を握りしめているカヅキによって、アキラはただただ唇を噛みしめてて耐えていた。
 苛立ちを隠そうともせず、ハルが再び乱暴な音を立てて椅子へと座る。周りの客に向けられていた視線が、カヅキを真っ直ぐに捉えた。

「別に紹介してほしいなんて俺は一言も言ってねぇだろ。」
「うん。俺が紹介したかっただけだよ。」

 その視線に怯えることなく、カヅキは隠れて繋いだ手に僅かに力を籠める。

「俺の番って紹介すると、俺のものって感じするよね。」
「……っ。」

 僅かに強くなった木の香りに、アキラは僅かに頬を赤く染めた。その様子をカヅキが満足そうに微笑んでいたのだが、アキラがそれに気づくことはなかった。
 その様子にハルの眉間に更に深い皺が刻まれる。

「惚気たいなら他でやれっ。俺は帰るっ!」

 捨て台詞のように大声で叫ぶと、ハルは立ち上がった勢いそのままに店を出て行った。
 慌てて顔を上げたアキラの視界には既にハルの姿はなく、残ったカヅキとユーグが静かに珈琲を飲んでいた。

「まったく、相変わらずだね。ハルも。」
「……す、すいません。」
「お前が謝ることじゃない。気にするな。」

 ハルが出ていったにも関わらず、カヅキ達が慌てる様子はない。青ざめるアキラの髪をゆっくりと撫でながら、カヅキは周りが頬を染めるほど甘い表情を浮かべた。

「可愛い。」
「……え?」
「何でもないよ。」

 普段のカヅキを良く知るユーグはその表情に、僅かに目を見開く。

「ここまで変わるなんてな。」
「そうだね。俺もそう思うよ。」

 可愛い。愛しい。大切にしたい。

 そんな思いがいつでも、どこでも、何度でも番に伝わるようにと浮かべられた笑顔と手の仕草。優しい木の香りに包まれ、それにつられるように、怯えていたアキラの口元が僅かにだが緩んだ。

「っ……可愛い。」
「うわぁっ。」

 もちろんその一瞬をカヅキが見逃すはずはなく、撫でていた手でアキラを抱きしめる。突然の抱擁と香りの高まりに、アキラは顔を赤く染めた。

 そんな二人の様子にため息をつき、ユーグは静かにファミレスを後にした。

「カヅキ先輩っ、は、離して!」
「どうして?アキラだってこんなに嬉しそうに匂いを出してるのに。」
「っ……ここっ、ここファミレスです!」
「じゃあ、俺の部屋行く?」
「む、無理です無理!」
「それなら、このままでいいよね。」
「だからっ……ちょっ。」

 番二人の仲睦まじい攻防はそれから1時間近く続けられた。


終わり


リク:アキラの続編

りりむ様リクエストありがとうございました。
そして「ハルの場合」冒頭へと話は続きます。


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あきゅろす。
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