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リュウの場合B
Aの続編。妊娠表現あり。少し長めでシリアス。(70000リク)



 この世界には番と呼ばれる自分にとって唯一の存在がいる。同性や異種族の番の中には卵殻と呼ばれる子を成せるものもいた。


「え?俺に卵殻が?」
「間違いないよ。」

 ニコニコと微笑む、ゾフと名乗った医者の言葉に、リュウは首を傾けた。
 しかし、その体は直ぐに後ろにいたカルガの胸へと抱きしめられる。

「い、った!……お、おいっ。」
「おめでとうございます。カルガ様、リュウ様。」
「ここに来たばかりのときは分からなかったから、多分、できて間もないはずだ。妊娠はもう少し先だな。」

 自分を無言で抱きしめたまま離さないカルガ、自分のことのように喜ぶモリ、そして早速妊娠の注意事項について説明し始めるゾフに、リュウは戸惑いを隠せなかった。まさか自分に卵殻が出来るとは思わなかったのだ。

 番と出会えるものは全ての種族を含め、約半数程度だと言われている。異性同士であれば、もともと卵殻がある女性が子供を身籠る。しかし、その割合は番全体の三分の一程度だ。三分の二が異種族または同性が番なのである。
 しかし、同性や異種族であっても、受身側の体内に卵殻を持つものや後天的にできるものがおり、女性と同様に妊娠が可能だった。中には強制的に卵殻を形成させることができる血族もいるが、それは例外中の例外だ。

 それから間もなく、リュウは人生最大の緊張に包まれながら、卵殻のある番として国王へ紹介されることとなる。




「……うぐっ。」

 相変わらず激しく求められ、疲れた体をカルガに抱えられる形で席に着くまではいつも通りだった。しかし、盛り付けられたスープの匂いを嗅いだ途端、リュウは口を押えて机へと倒れ込む。

「リュウ?どうした。」
「……っ……ぐ、うぅ。」

 同じく朝食をとろうとしていたカルガの目の前で、耐え切れず床に胃液を嘔吐した。一度吐き出してしまうと、その匂いで更に嗚咽が込み上げる。
 何度も何度も唾液と胃液を吐き出すリュウに、使用人や料理人たちが慌てる中、カルガは嘔吐物に汚れたリュウを自分の服で包むと、直ぐにベッドへと歩き出した。
 その様子に、使用人が慌てて周りに指示を出す。

「すぐに医者を!リュウ様の着替えとお湯も必要ですね。あと、今日の料理を作った者と給仕に関わった者を調べなさい。急いで!」
「わ、分かりました!」

 騒がしくなる部屋で、カルガは自分達が出てくる前の惨状を微塵も感じさせない、綺麗にメイキングされたベッドへとリュウの体を横たえた。
 その間も、リュウの嘔吐は止まらず、辺りに酸味を帯びた匂いが漂う。

「ご、ごめっ……ごめ、な……さっ。」
「大丈夫だ。大丈夫。」

 気持ち悪さと、嘔吐による生理的な涙が零れ落ちるリュウの目をカルガは優しく何度も拭った。
 リュウに向けた表情は穏やかだったが、後ろを振り返り使用人を見つめる視線は相手を凍り付かせるほど冷たい。

「ゾフはまだか。」
「も、申し訳ありませんっ!」
「おい、どうしたってんだ!」
「先生っ、鞄をーっ!」

 使用人が土下座したのと、寝室の扉を乱暴に開けて、白衣を着た男が走ってくるのはほとんど同時だった。
 男の後を追って、大きな鞄を持った男も現れる。

「遅いぞ、ゾフ。リュウが何も食べないうちに、急に吐き出した。」
「吐き出した?」

 ゾフと呼ばれた男は、脂汗で濡れたリュウの額に手を当てた。そのまま手を目、胸、腹部へと移動させる。丁度臍下へと手を伸ばしたゾフは、真剣だった表情を更に険しくした。ゾフの動きを見守るカルガや使用人達の表情にも緊張が走る。
 ずっとリュウの手を握り、ゾフを見つめていたカルガが痺れを切らして口を開こうとしたそのときだった。

「おめでただな、こりゃ。」

 嬉しそうな笑みを浮かべたゾフの声が、静かな寝室へと響いた。

「……え?」

 一番最初に反応したのは、嘔気と戦っているリュウだった。眉を潜めるリュウに、ゾフは安心させるように穏やかに告げる。

「そうだ。卵殻に核が着床している。間違いない。吐き気は多分、カルガの力が強すぎて、体が抵抗しているんだろう。慣れれば収まるはずだ。」
「ちゃく、しょう……。」
「吐き気が落ち着くまでは、性交は禁止。負担が強ければ流れることもあるからな。」

 いいな、とゾフが睨んだ相手はもちろんカルガだ。生々しい言葉に、リュウは顔が熱くなるのが分かった。しかし、再び込み嘔吐が続き、カルガの表情を確認することなく、疲れて眠りにつくことになる。

 目覚めては、差し出された食事の匂いで吐き、吐き終われば疲れて眠る。ゾフ曰く、『悪阻』と診断されたその症状は続き、リュウの体に負担をかけていた。ゾフの指示で栄養剤を点滴しているが、食事を摂取できていない体は酷く痩せてしまった。
 リュウの記憶に、友人が妊娠したと笑顔で報告していた姿が浮かんだが、今の自分とは違いすぎる光景に涙が出る。
 今日は仕事でカルガが不在のため一人で眠るベッドの広さに、更に胸が締め付けられた。ミントの香りが嘔気を和らげてくれるため、吐いても嫌がる素振りを見せず、自分を抱きしめてくれるカルガの存在がリュウの中で支えになっていたのだ。

「……本当に、ちゃんと産まれるのかな。」

 腹部に手を当て、リュウは体を丸める。
 ベッドの周りには、楽な姿勢を保てるよう様々な形のクッションが敷き詰められており、その殆どは国王陛下や王妃からの贈り物だった。他の王子の番は卵殻形成がまだ報告されておらず、リュウが現在唯一跡継ぎを産める体だ。
 日々強くなる期待、全く収まらない悪阻、考えれば考えるほど、不安大きくなっていた。


「……ん。」

 丸まった姿勢のまま、いつの間にか眠ってしまったらしい。固まった体を動かそうと寝返りを打つ、が動かなかった。

「起きたか。」
「あ。」

 ふわり、と香るミントの匂いに、リュウは自分の表情が緩むのが分かる。

「仕事、終わった?」
「あぁ。体は大丈夫か?」
「んー、まぁ。」

 既に寝巻に着替えていたカルガに抱きつき、ミントの香りを吸い込みながら、リュウは溢れそうになる涙をカルガの寝巻にしみ込ませた。

「……ごめん。」
「なぜ謝る。」
「……って、俺、全然赤ちゃんに栄養あげれて、ない。」
「俺の子だ。心配するな。ゾフからも問題なく育ってると報告を受けてる。」
「でも……んっ。」

 ふいに、顎を掴まれたかと思えば、口内に舌が差し入れられ、リュウの言葉を奪う。久しぶりの口付けに、自然と舌を絡ませ合い、互いの唾液を交換する。
 性交を禁止されて以来、自然とそういう雰囲気になるのを避け、触れ合うだけに留めていたのだが、一度触れ合ってしまうとリュウもカルガも止めることが出来なかった。

「ん、ふ……ぅ。」
「リュウ……。」

 カルガの首へと手を伸ばし、リュウは強くなるミントの香りに目を細める。それ以上先に進めないもどかしさが、二人の口付けを長く深いものへ変えていった。
 高ぶった熱を布越しに擦りつけ、互いの香りを堪能する。

「……リュウ、大丈夫だ。ちゃんと産まれてくる。」
「……っ、う、ん。」

 一番欲しかった言葉に、リュウは何度も頷き、熱を紛らわすように互いに強く抱きしめ合い、眠りについた。

 不安がなくなったことが良かったのか、体液を交換したのが良かったのか、それから間もなく、悪阻が収まり、普段通りの生活ができるようになる。
 食事もカルガほどではないがしっかり食べ、散歩と称した城内探検も楽しみ、使用人が心配するほど活発に動いたが、ゾフの定期的な検査は全て合格点をもらっていた。

「んー、そろそろだな。かなり核が下へ降りてきてる。」
「そうか。」
「しっかり解せよ。そうしないと、痛みが強くなる。」
「……っ。」
「分かっている。」

 真剣に話続けるゾフとカルガの声を聴きながら、つい数分前ゾフから教えられた出産の準備方法に、リュウは顔を真っ赤にしながら拳を握りしめていた。
 卵殻により子供を身籠ることができる、というのはこの世界で誰もが知っていることだ。しかし、実際に卵殻から出産する方法を知っているものは少ない。卵殻を持つ男性が少ないことも原因だった。

『子供は大人の拳大の太さまで育てば、核膜に包まれて産まれてくる。だから出産前に出口をしっかり解さないと、最悪の場合避けて縫う必要が出てくるんだ。』

 出口、と言われたのは、間違いなく自分のあの場所だ。嫌でも額に汗が流れた。そんなリュウを余所に、カルガは弛緩剤が混じったローションを受け取る。

「あとは、刺激で核が降りてくることがある。指に触れたときはすぐに俺を呼べ。いいな。」
「あぁ。」

 準備はその夜から始まった。一番楽だと説明された、うつ伏せで腰だけを上げた体勢を取りながら、リュウは手元のクッションへと赤い顔を埋める。

 クチュ、チュプッ

「っ……う……ふっ。」

 カルガの長い指が何度も出入りするたび、堪えきれずに噛みしめた唇から吐息が漏れた。
 確かに、カルガ以外頼める者はいなかったが、纏った衣服を崩すことなく解すことだけに専念しているカルガと比べ、その行為に感じて先走りを垂らすペニスを露出している自分が堪らなく恥ずかしい。
 子供のためと、リュウは必死に声を我慢していた。しかし、弛緩剤が含まれたローションにより既に三本入り込んでいる指が意図せずあの部分に触れるたび、以前のようにカルガの太い熱で擦りつけてほしいと、厭らしい願望がリュウを支配していく。

「ふぅっ、ふ……んんっ。」
「リュウ、四本目だ。」
「う、んっ。」

 感覚は既に麻痺していたが、それでも指が増えた圧迫感は分かった。無意識に強張る背中に、カルガの唇が触れる。触られることのなかった前にも手が伸ばされ、リュウは慌てて体を起こそうとしたが、優しく扱かれてしまい、再びクッションへと顔を埋めた。

「っあ、駄目っ、カルガッ!」
「ここを触れば力も抜けるだろう?」

 ヌプッ、グプッ、グチュッグチュッ、

「ひっ、あ!んっ、だめぇっ。」
「……っ。」

 中を指で掻かれ、同時に既に濡れているペニスを強めに扱かれる。久しぶりの強い快感に、リュウは自分の声が甘く色づくのが分かった。
 無意識に強まったリュウの香り、厭らしく揺れる尻に、カルガは喉を鳴らす。
 男の指を四本飲み込んだそこは、縁を赤く染め、注がれたローションで光っていた。弛緩しているはずだが、キュウキュウとカルガの指を柔く締め付ける。
 ぶわっと強くなったミントの香りに、リュウは堪らずカルガを振り返った。

「……て……カル、がッ、も、入れ……んあぁっ!」

 ズブブブッ

 指よりも熱いものが中を抉り、リュウの嬌声が寝室に響く。その声に更に質量を増した熱が、ローションを溢れさせ内腿を伝った。
 背中と胸をしっかりと合わせ、互いの熱を堪能する。自分の体を労わり、動こうとしないカルガに、リュウは言い表しようのない幸せを感じた。クッションを抱いていた手を腹部へと這わせる。

「カルガ、がいる……。」
「っ……リュウ、これ以上煽るな。」

 抑えきれなくなる、と唸り声が耳に届き、リュウは思わず笑みを浮かべた。

「はぁっ……ん、カルガ、らしくない、ね。」
「だから、リュウ……っ。」
「あっ!ん、んっ。」

 お仕置きとばかりに奥を突かれ、ビリッとした刺激が腰に走る。

「カ、ルガッ、この、姿勢やだっ。」
「あぁ。」
「ひぃっ、あぁっ。」

 繋がったまま、体位を変えられ、中を擦られる感覚にリュウは体を仰け反らせた。宙を彷徨うリュウの左手を握り、カルガは腰を深く押し付ける。

「は、ぁ……んーっ。」

 小さく痙攣したのち、リュウのペニスから白濁がとろりと零れ落ちた。それを指で救い上げ、カルガはリュウが見つめる中で自分の口へと含んだ。
 その光景に、リュウは眉を潜める。

「舐める、なよっ。」
「上手くはないが……興奮する。」
「……っ、バカッ。」

 思わず顔を反らしたが、強いミントの香りが、リュウに嫌でもカルガが興奮していることを伝えるのだ。それが嬉しいとも思う。
 いつの間にか本来の目標を忘れてしまった二人が、ゾフに叱られるのは数時間後のこと。


 数日後、半日もの長い格闘の末、我が子を腕に抱きしめた番と、その番を抱きしめる幸せそうな第二王子の姿があった。


終わり


リク:子どもが出来るとこから、産まれるまで

はる様リクエストありがとうございました。


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