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モリの場合A
モリの場合の続編。


 この世界には番と呼ばれる自分にとって唯一の存在がいる。匂いの強さは各々により違いがあり、中には香りを一段と強くする時期を持つ種族もいた。



「……ん。」

 長くしみ込んだ時間間隔というものは、環境が変わったとしてもそうそう簡単に変更できるものではない。
 まだ夜が明けない暗闇の中で、重い瞼を擦るモリも例外ではない。
 本人の意思とは関係なくハクコ国に嫁いでから、今日で一週間となる。それでも、モリの目覚めは夜明け前だった。しかし、その体がベッドから起き上がることはない。否、出来なかった。

「……まだ、起きるには早いよ。」
「……っ、は、はい。」

 後ろから自分をしっかりと抱きしめる腕は、番となったイセのものだ。耳元で囁かれる掠れた声に、モリは体を強張らせた。
 お互い衣服は身に着けているものの、ハクコ国の夜着は薄衣で仕立てられているため、抱きしめられていれば嫌でも相手の熱を感じてしまう。
 強く抱きしめ直し再び眠りに落ちたイセに、モリは小さくため息をついた。

「……。」

 すっかり目覚めてしまった意識は、嫌なことばかり思い浮かべてしまう。
 嫁いでから一週間。一週間“も”経ったが、イセが自分を性的な意味で抱く様子はなく、仕事以外は殆ど一緒にいるが、今のように抱きしめられているか、他愛もない会話を交わしているだけだ。
 そんなイセの態度はルガ国の王族を見てきたモリにとって、かなり勇気を持って嫁いできた分、拍子抜けを通り越して不安さえ覚える。

 やっぱり本当の番じゃないのかもしれない。

 モリがいつも考えるのはそれだった。嫁ぐ前にホトリにハクコ国について説明はされたものの、「番には互いにしかわからない匂いがある」と昔から教えられ、周りを見て学んできたモリにとって、未だに体温が分かるほど触れ合っていてもイセの匂いが分からないことは番としての自信を奪っていた。
 そして、今日もイセ付きの使用人が二人を起こしにくるまで、眠れずに考え続けてしまった。

「モリ?食事、美味しくない?」
「い、いえ……美味しいです。」

 あまり食の進まないモリに、イセが首を傾ける。モリとイセの前にはそれぞれ違う料理が並んでた。
 主食が肉であるハクコ国では、朝からステーキを食べる。もちろんイセも高級霜降り牛を食べているが、初日の朝食で胸やけしてしまったモリの目の前には、香ばしく焼かれたトーストと小さなミートボール、サラダが盛り付けられていた。
 イセの言葉に、モリは慌ててサラダを手に取り口にする。食べている姿をジッとイセに見つめられ、モリは居心地が悪くなった。

「ちゃんと食べてね。もうすぐみたいだから。」
「もうすぐ、ですか?」
「うん。もうすぐ。」

 ただでさえ綺麗な顔立ちが、自分に向けて満面の笑みを浮かべるものだから、モリは顔を赤く染めて俯いた。これでもかなり慣れたのだが、照れるものは照れるのだ。

「イセ様もしっかり食べてくださいね。今日も仕事が山積みですから。」
「……分かってる。」

 使用人のサクラが既に空になっていた鉄板を片付け、新たにヒレ肉のステーキを差し出す。イセは見た目こそ細いのだが、その食欲はイセよりも体格のいいカルガを軽く越してしまう。今日の朝食はステーキ2枚にモリの顔と同じくらい大きなパンだった。サクラに聞いても、どの王族も同じくらい食べるというのだから驚きだ。

「モリ様、お皿を変えましょうか?」
「あ、いや。もう食べれないので大丈夫です。」
「本当ですか?遠慮なさらずともよいのですよ?」
「本当に大丈夫です。」
「小食なんですね。」

 イセも含め、ハクコ国の人たちは大食漢すぎる。
 そんな食事を終え、イセは仕事へ、モリは王族としての勉強会へと向かった。一応ルガ国王子の使用人として働いていた分、ある程度の作法はなんとかなるのだが、如何せんルガ国のことしか勉強してこなかったため、モリはハクコ国の伝統や流儀に関しては全くの無知に近い。
 日々、ハクコ国とルガ国の違いに驚くばかりだった。


「モリ様は覚えがよいので、教える側もとても助かります。」
「そ、そんなことは……。」

 隣国であるにも関わらず、風習の違いに戸惑っていたモリがそれなりに過ごせているのも、目の前で優しく微笑む先生のおかげだ。見た目はルガ国国王と同じくらいの年齢に見える彼だが、現在のハクコ国国王にも勉強を教えていたらしく、一体何歳なのかは不明だった。

「イセ様も本当によい番を見つけられました。番が見つからず焦っていたときより、表情が生き生きしてますしね。新しい仕事も増えたのでしょう。」
「え……?」
「ハクコ国では番がいない王族は重要な役職に就けないのです。こればかりは国の法律で定められていることなので仕方のないことですが。イセ様は優秀ですから、周りも本当に気にかけていたんですよ。」
「……そう、なんですか。」

 穏やかに話を進める先生の言葉に、モリはひどく動揺した。それでも会釈できたのは、使用人としての経験があるからだ。

 ハクコ国では番がいない王族は重要な役職に就けない。

 もし。もしも、イセが役職に就きたいがために、他国の、番の匂いが分からない自分に偽りの事実を告げていたとしたら。

 自分を抱かないイセ。匂いが分からない自分。忙しそうに働くイセ。唐突過ぎる出会い。

 思い当たる節はいくらでもある。思い当たることが多すぎて、モリは使用人時代に何度も使用していた人当りのよい嘘の笑顔を浮かべて勉強会を終えた。
 それからのことはあまり覚えていない。勉強会が終わり、昼食へと促されたが、唯一自由を許されている自室の扉を施錠し、ベッドへと体を預ける。
 布団が濡れていた気がしたが、それが何かは分からなかった。

「……そっか。やっぱりそうなんだよ。」

 一人で眠るベッドがこんなに広いなんて知らなかった。体を丸めても、布団で体をくるんでもいつもよりも寒い。

「……っ、うぅっ。」

 こんな思いをするなら、嫁いでこなければよかった。カルガ様のもとで、番様の仲睦まじい雰囲気に幸せを感じるだけでよかった。

「カルガ様とリュウ様のもとへ戻りたい……。」

 肌触りの良いシーツを握りしめ、かつての主であった二人の姿を思い浮かべたそのとき。

「そんなこと許さないよ。」
「え?……っ、わ?!」

 急に布団を取り上げられ、驚いたモリが目にしたのは誰もいるはずのない部屋の中で笑顔を浮かべたイセの姿だった。笑顔と言っても、いつもの優しい、穏やかなものではなく、モリが動くことすら許さない、相手を支配する冷ややかな笑顔だ。

「……どうし、て。」

 あやふやな記憶だが、鍵をかけたのは覚えている。そうすれば使用人が入ってこれないことはルガ国で学んでいたからだ。誰にも干渉されたくなかったのだ。

「ゾシュがモリの様子が変だって報告に来てね。様子を見に来たら、使用人達が扉の前で困っていたんだよ。」
「……っ。」
「帰るなんて絶対に許さない。モリは俺の番なんだよ?」

 モリは俺から離れて平気なの、と笑顔を浮かべたままイセがモリが横たわるベッドへと近づいて来た。
 近づくたびに、ラム酒の様なアルコールの匂いが満ちていく。酒類の弱いモリは、その匂いだけで頭がふわふわしてきていた。

「……あぁ、丁度良かった。やっと、きた。」
「き、た?」
「そうだよ。きたんだ。」

 動けぬままのモリに、イセが覆いかぶさる。あと数センチで唇が重なる距離に、モリは顔を真っ赤にして視線を逸らしたが、途端に香りが強くなり更に意識が揺らいだ。

「流石にこれだけ強ければモリも分かるよね?俺の匂い。」
「……にお、い。」
「そう。俺の、匂い。」

 顔を反らしたため露わになった首筋を舐められ、慌てて体を動かそうとしたが、香りが強すぎて手を動かすことすら億劫になる。
 酩酊、というのはこんな感じなのだろうか。全身がふわふわして、熱くなっていく。体の奥から、ゆっくりと、しかし確実に侵食する熱が一体何か、モリにはわからなかった。

「……んで?……いま、さら。」
「今更?……あぁ、ルガ国は番に出会ってからすぐ発情するんだね。」

 髪を好かれるだけでも、熱が高まる。イセに触れられるたび、息が荒くなる。必死に質問を投げかけたが、その答えをイセから聞く前にモリの体が悲鳴を上げた。

「……熱ぃ……熱い、よ。」
「そうだよ。俺の番だから、熱くなるんだ。」
「っ、あ。」

 耳朶を指で擽られ、イセの吐息を感じた途端、電気のような強い刺激が全身に走る。戸惑うモリをゆっくり抱き起すと、イセは胡坐をかいたそこへ向かいうようにモリの体を下した。
 強い酒の香りでもはや自分で体を支えることもできず、モリはぐったりとイセへと凭れ掛かる。頭を胸に掻き抱くような姿勢に、イセは遠慮なく近づけられた突起へと布越しに舌を伸ばした。

「っ!ン、何っ?!」
「大丈夫だよ。モリが俺のものになるだけだから。」
「あぁっ!」
「敏感だね。ん。本当に良い香りだ。」

 ジュッ、と乳首を吸われ、甘い刺激にモリは頭を振る。しかし、高まる熱に僅かに汗を滲ませた体では、香りを振りまくこととなり、触発されたイセの香りが更に強くなった。
 いつの間にか衣服を全て取り払われ、乳首や首筋、右脇腹など、モリが弱い場所に次々と赤い印が刻まれていく。
 それすらも強い刺激となり、モリの口からは甘い声が零れ続けた。


 ヌチュッ、クプッ

「ひっ、あ、ん……んぅ、ふぅっ。」
「柔らかくなったね。モリ、分かる?あんなに狭かったのに、俺の指を三本も咥えてるよ。」
「っ!い、わな……ひっ。」

 たっぷりと準備されたローションを纏った指が出し入れされ、時折確かめるように広げられる。モリの腹には既に何度も達した白濁が垂れ、シーツへと流れていた。立てた膝を崩す度、嫌と言うほど前を扱かれたためだ。
 一際大きな音を立てて指が抜かれ、唾液で濡れたモリの唇にイセのものが重なった。

「ふ……んむ……っ。」
「は……入れるよ。」
「んっ!」

 舌を絡ませたまま、指ではない熱く固いものがゆっくりと自分の中へと入り込んでくる。じっくり、優しく、初めて開かれるそこへと押し込まれていく。
 その大きさで内臓を圧迫される感覚に、思わず顔を顰めるが、苦痛の声はイセの舌にかき消された。

 火傷するのではないかと錯覚するほど熱いもの。グラグラするほど強い香り。自分を抱きしめる熱い体。全てがイセとモリを番だと示していた。

「ん。全部、入ったよ。」
「はぁっ……ぜ、んぶ……全部……っ。」
「そう。全部ね。」

 ボロボロと零れ落ちる涙を、イセの舌が何度も拭っていく。自分の体を労わって動こうとしないイセの優しさに、香りに包まれる幸福感に、モリは涙を止めることができなかった。

 疑ってごめんなさい。

 汗に濡れたイセの背に手を回し、モリは嗚咽を漏らす。震える体をイセは更に強く抱きしめた。



 ズブッ、グチュッ、グチッ、ヌチュッ

「っ、あ!んぅ、ふ……い、あっ、ヤぁっ。」
「嫌?こんなに締め付けてるのに?」
「ひぃっ!ああぁっ!」

 揺さぶられるがまま、モリは力が上手く入らない手で自分を見下ろすイセの白い肌へと爪を立てる。二人をつなぐ場所からは、どちらのものか分からぬほど大量の白濁が泡立ち流れ落ちていた。

「無理っ、もうヤっ。でな、いっ。」
「大丈夫だよ。出なくてもイけるから。」
「ふ、ぁっ、あんっ。」
「可愛い。本当に可愛い。早く二人の子供が見たいね。」
「ああーっ!」

 痙攣のように激しく体を震わせたモリに、イセも小さく息をつめる。より深く、奥へと吐き出すと、今度はモリに伏せの姿勢を取らせ、腰だけを高く上げた状態を作った。

「っ、まだ?!」
「そうだよ。俺達の発情期は一週間ある。そのために休みを作ったんだから。」
「うぁっ……んっ。」

 出し続けたにも関わらず、固さの変わらない熱にモリは顔を青ざめさせる。ルガ国では最高でも四日間が限度だった。それは互いの体力的にも社会的にも問題が出てくるからだ。

「本当に可愛いね、モリ。俺から離れるなんて、絶対に駄目だよ。駄目だから。」

 ズブブッ

「ひぃっ!あ、あん、あっ、うあぁっ。」

 後ろから激しく腰を押し付けられ、溢れ出た唾液が様々な液体で汚れたシーツへと染み込んでいった。
 疲れた体をラム酒の匂いが包み込み、嫌でも体が高ぶらされる。
 白くて儚い印象を持つハクコ国の王族が、人一倍性欲が強く体力があることを、モリは一週間食事以外休むことなく続けられる子作り活動で嫌でも実感することとなった。


終わり。


ハクコ国の場合。
番との出会い後、二〜四週間で一回目の発情期が出現する。発情期の間は香りが強くなる。その時期に性交することで、番に卵殻が生成される。


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