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朝と夜の間
オメガバース/両性具有
※少し暴力表現あり

「嫌だっ、離せ!」
「はっ、こんだけ香りまき散らして誘ってきたのはお前だろ。」
「ち、違うっ!俺は……。」
「うるせぇ。Ωなら大人しくαに従ってろ。」

 寒空の公園のベンチで、夜(ヨル)は乱暴なαに組み敷かれていた。深夜1時を過ぎた時間にαが現れることも、たまたまお腹が空いておでんを買った帰り道に薬が切れて匂いが漏れてしまったことも、夜には予測できていなかった。
 Ωという自覚はある。だからこそ、今まで薬で発情期をひた隠しにしていたのだ。鼻につく、αの強い香水の様な匂いや、腕を力づくで押さえつけられる痛みに夜は黒い眼に涙を浮かべた。

 こんなはずじゃなかったのに。

 視界の端に、撒き散らされたおでんの残骸が映る。
 強引にパーカーを引き上げられ、初冬の寒さが肌を指した。

「へぇ……女みてぇな色だな。」
「っ!」

 にやりと嫌な笑みを浮かべた男の台詞に、顔が熱くなる。薄ピンク色の乳首は、夜のコンプレックスでもあるのだ。
 今すぐにでも逃げ出したいのに、αの香りに力を失った体ではそれも叶わない。

「こっちも同じ色してんのか?」
「ちょ、やだっ!触んなっ!誰かっ、やめろぉっ!」
「おいっ、抵抗すんな!」
「っ?!」

 男の手が下半身へと伸び、夜は渾身の力で抵抗した。急に強く暴れ出した夜に、男は苛立ちを隠すことなく、頬を平手打ちする。痛みで顔を歪めつつも、夜は抵抗を止めない。

 見られたくない。そこだけは絶対に見られたくないっ。

「やだぁっ、いやだーっ!」
「うるせぇな。強姦なら隠れてやれよ。」
「あぁ?」

 二人だけしかいないはずの公園に、静かな低い男の声が響いた。もう一度夜に手を上げようとしていた男が不機嫌そうに振り向くのと同時に、夜も涙でぐちゃぐちゃな顔をそちらへ向けた。

 その瞬間の気持ちはなんと表現すればいいのかわからない。

「ひっ……。」
「ガキが邪魔すんな。」

 月夜に光る金色の髪、そして、威嚇する男に全く臆していない堂々とした態度。
 何より、夜はその男と目が合った途端、視線を離すことが出来なくなった。体中の熱が一気に上昇し、自分でも分かるほど甘い香りが漂い始める。
 男を誘い込むような、溶かし込むような香りに、組み敷いていた男が視線を夜へと移し、舌なめずりをした。

「クソいい匂いだなぁ。人に見られて興奮したか?」
「ち、違……。」
「……せ。」
「あ?まだいたのか。さっさと失せろ、クソガキ。」
「失せんのはオジサン、お前だボケ。」

ドカッ

「うぐぅっ?!」

 男の目が怪しく光ったかと思った瞬間、夜を圧迫していた重みが消えた。

ガッ、ドゴッ

「ぐぅ、うあぁっ。」

 無言で金髪の男が、夜を押し倒していた男を蹴り続ける。一方的な暴力に、男はなすすべもなく、しばらくして動かなくなった。
 その間、夜は動くこともできず、体の熱にうなされながら、金髪の男から視線を離せずにいた。
 ようやく動きを止めた金髪の男が、夜へと視線を移す。

「……ひぃっ。」
「……」

 彼は完全なる、『夜のα』だと夜の全身が示していた。熱が、震えが、涙が止まらない。
 ベンチで横たわる夜に、金髪の男はゆっくりと近づき、涙で濡れた頬を何度も親指で拭った。

「俺の、Ωだな。」
「……っ。」

 男から香るαの匂いは、木天蓼の様だった。近くにいるだけで、触られるだけで、全身が性感帯になったようにビリビリとした刺激が駆け巡る。

「名前は。」
「……。」
「名前。」
「よ、夜……。」
「そう。俺は朝斗(アサト)。」

 朝斗、と覚えたばかりのαの名前を口にするが、唇が震えただけで声にはならなかった。




「……っ、あぁっ。」
「うわ、エロすぎ。男でコレはやばいだろ。本当に今まで誰にも犯されてないのか?」
「っ、ない……んっ。」

 薄ピンクから、真っ赤に色を変えて熟した乳首に吸いつかれ、夜は堪らず頭を振った。
 男に見られた乳首は、かれこれ1時間以上吸いつかれ、抓られ、捏ね回されている。ジンジンとした甘い刺激に、夜はもはや胸に顔を埋めている朝斗の髪を緩く握りしめることしかできなかった。
 朝斗に動けない抱き上げられ、連れてこられたのは、夜でも知っているほど高級なホテルの一室。暗闇ではなく、しっかりと照明に照らされた寝室で、夜の乳首は唾液で赤く光っていた。
 上半身だけを徹底的に弄られ、下半身は自分で脚あを擦り付けることすら間に入った朝斗によって阻まれている。刺激で体を震わせる度に、嫌でもぐちゃ、と濡れている感覚が夜を襲っていた。

「つーか、濡れすぎだろ。お前。そんなに乳首気持ちい?」
「はぁっ、んぅ。」

 楽しそうに夜の唇を奪いながら、朝斗はようやく夜のズボンへと手を伸ばす。しかし、ゆっくりと焦らすように差し入れた指の感覚に、ふと違和感を感じて、思わず夜を凝視した。

「お前、まさ、か……。」
「っ……うぅっ、ひんっ!」

 くぷっ、と本来ならあり得ない場所に指が埋まる。そこは熱く濡れ、きゅうっと朝斗の指を締め付けた。
 驚きを隠せず、朝斗が乱暴に夜のズボンを脱がし、開脚させる。

「あぁっ!やっ、ごめ……。」
「……マジかよ。」

 恥ずかしい部分を見られたと分かった途端、夜は朝斗の表情を見てぼろぼろと涙を零して謝罪した。

 嫌われた。気持ち悪いって、嫌われた。

「ごめんっ……すてな、で……あさ、とさっ……。」

 しゃくりをあげる夜を余所に、朝斗はその部分をジッと見つめる。男なら当たり前の陰茎の下、本来あるはずの袋がなく、代わりにやらしい液を零し続ける割れ目がそこにはあった。
 夜がひくっと鳴くたび、そこも小さく収縮して朝斗を誘う。

「……生理は?」
「っ……あ、る……。」
「じゃあ子供、作れるな。」
「……え……い、たっ!」

 指を中に捻じ込まれ、初めての痛みに夜は顔を歪めて、涙を零した。

「本当に初めてなんだな。」
「……っ。」
「無理強いはしない。今日は解すだけだ。」
「んあっ!」

 指が抜かれたと同時に、熱い何かが夜の割れ目を這う。視線を股間へと移した夜は、顔を真っ赤に染め上げた。
 優しく、丁寧に舐められ、時折奥を突かれる。堪らず、前へ伸ばした手には朝斗の手が被せられ、自分の手を使って扱かれた。初めて与えられる両方からの強い刺激に、夜はあっけなく訪れた吐精の快感と共に瞼を閉じた。





「よーる、はよっ。」
「痛って!はよー。」

 朝から乱暴なタックルをかましてくる友人に苦笑いを浮かべながら、僅かにセットが乱れた髪を手で治す。

「あー、マジで彼女ほしい。夜、紹介してくれよー。この前○○女子大と合コンしたんだろ?」
「あれは数合わせだって言っただろ。別に何もなかったって。」
「けっ、いいよなー。これだからモテル男っつーのは。」
「もてねーって。お前の方こそ、この前○○大の飲み会行ってただろ。」

 明るい茶髪、度入りのカラコンで縁どられた茶色い瞳、お洒落な私服。所謂格好いい男として、夜は大学の中でも人気があった。それは、夜と共に大学生活を楽しむ友人も同じ。二人で学食に行けば、かなりの確率で向こうから声がかかる。

 だからこそ、自分がΩであることは絶対に隠さなければならなかった。

「また絡まれてんな、あいつ。」
「え?」
「ほら、あいつ。狩野見……朝斗?有名な会社の御曹司らしいけど、見た目があれじゃ、そりゃ絡まれるよな。」
「……あさ、と……。」

 彼、朝斗は夜が起きたときにはすでにホテルを出ており、支払いも済まされていた。せっかく出会えた運命のαに捨てられた、あの瞬間の気持ちはまだ夜の傷を癒してはいない。ただ、綺麗な文字で書かれていた『ちゃんと迎えに行くから待ってろ。』の置手紙だけが夜の心の支えだった。
 友人が指差す、朝斗と呼ばれるその存在に視線を向けたそのとき。

「……っ、うそ、だろ?」
「ん?夜、どした?」
「っ、んでもねぇよ。い、行くぞっ。」

 困惑する友人を余所に、その腕を強引に引っ張り夜は学食を後にする。
 夜のように派手な格好の男達に囲まれていたのは、金髪ではなく黒髪の地味な男だった。しかし、彼がふと夜を見つめた視線は、紛れもなく『あの朝斗』のもの。
 なぜ、彼が姿を偽っているのかは分からなかったが、これ以上彼の傍にいてはΩである自分に影響がでないとも言えない。
 ただ言えるのは、彼に再開できて高揚感が夜を襲ったことだけ。

「……早く迎えに来いよ。」
「ん?なんか言ったか?」
「なーんにも。」

 不思議そうに首を傾ける友人に、夜は満面の笑みを浮かべた。


終わり。



オメガバースの意味があまりなかった気がしないでもないですが……初オメガバース話でした。


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あきゅろす。
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