【夢と知りせば】 鮫誕SS ボスの夢を見るスク。 暗い




 あたたかな陽光が、苅り揃えた芝生の上に降り注いでいる。
頬を撫でる風は優しく柔らかで、豊潤な薫りに鼻孔を満たされる。



―――穏やかさと心地よさ。


最近長らく忘れていた感情に、S.スクアーロは包まれていた。


少し離れた場所には、真っ白なテーブルクロスの掛けられた大きめのテーブルが置かれ、
色とりどりの料理や花々が計算し尽くされたように配置されている。


この芸術的なテーブルセットを手掛けたルッスーリアはというと、
今まさに焼き上がったプディングを卓上に添えようと、鼻歌まじりに甲斐甲斐しく動き回っていた。


「ちょっとぉ、スクちゃんたらっ!
そんな所でボーッとしてないで、早くこっちを手伝ってよん」

ルッスーリアがこちらを振り返り、
いつものように小指を立て頬をぷぅと膨らませて言う。
されども本気で怒っているようではなく、サングラスの奥にある目は
優しげに細められているようだった。


「お、おぅ。すまねぇ……
あんまり外が気持ちいいんもんだから、つい……」

遠くの方で、ベルフェゴール、マーモン、レヴィ=ア=タンの声が聞こえる。
独特の「にしし」という笑い声に
「ム!また君って奴は!」「ぬぉぉ、ベル貴様!子供だからとて容赦はせんぞ!」
と怒鳴り声が重なる。彼等らしい、いつも通りのやり取りに思わず笑みがこぼれる。


「あらあら。ベルちゃんたちったら、あんなにはしゃいじゃってぇ……
うふ、でも分かるわぁ、その気持ち」

「なんだよ、皆してノリノリだなぁ…」

「まぁ、スクちゃんだって十分楽しそうな顔してるわよぉ!……さぁ、早くプディングを並べなきゃ!」


「今日のボスは機嫌も良さそうだし、参加してくれるかもしれないわ。
スクちゃん、ボスを呼んできて頂戴。」ルッスーリアがうきうきした声で言った。













「あ゛ぁ…腹いっぱいだぜぇ」

ささやかなガーデンパーティーの後のまどろみ。
スクアーロは芝生の上にごろんと転がり、雲一つない青空を仰ぎ見る。
胃袋の限界まで料理を詰め込んだ身体は重く、横にならないと息苦しい程だ。

ルッスーリアが腕によりをかけて作ったブランチはどれも美味で、
思わず手を伸ばさずににはいられなかったのだ。

それはスクアーロに限らず皆同じだったようで、
既に皿が片付けられたテーブルを中心として仰向けに寝転がる面々が
視界の端に写る。満腹感と午後のあたたかい空気に誘われたのか、
暫くするとマーモン、ベルフェゴール、レヴィ=ア=タンの順に寝息が聞こえ始める。

ルッスーリアは食後の紅茶を滝れる為にいったん屋敷へと戻っているので、
辺りには微かな寝息と風のそよぐ音だけしかしない。



――クーデターから半年と少し。


見事九代目を討ち取り、十代目となったXANXUSと、
同じく十代目の守護者となったヴァリアー幹部たちのこの半年間は、実に忙しないものだった。

クーデターで多くの構成員を失ったボンゴレを、この混乱に乗じて潰してしまおうと目論む
敵対ファミリーに制裁を加え、尚且つ新体制つくりあげた今、
イタリアンマフィア界においての地位を不動のものとするべく
日々働き詰めだったのだ。思い返せばあっという間だったが、
不眠不休で動かし身体にはさすがに疲れが溜まっていたらしく、
久々に訪れた穏やかな日々に安堵している自分がいた。





「おい、カス」

意識を遠くの青空へと飛ばして考えを巡らせていたスクアーロは、
突然現れた主とその声に一瞬ビクリとする。


「なんだぁ?お前もすっかり昼寝しちまってんのかと思ったぜぇ」

そのまま一発殴られるかと思ったが、この気まぐれな主は、得に意に介していない様子で
ドカリとスクアーロの隣に腰をおろした。



「今日のメシ、旨かったなぁ」
「あぁ…旨かった」

「つーか、ここ最近雨続きだったろぉ?
晴れたの久しぶりじゃねぇかぁ?」

「あぁ、晴れたな」

「あったけぇなぁ」

「あったけぇな」

「なんかオレ、今すっげぇ幸せな気分だぁ」

「……そうか」


たわいない会話が続く。



 最近になってようやく、XANXUSとまともに会話が出来るようになった、
とスクアーロは考える。

出逢ってから約一年。
ほぼ毎日一緒に過ごしてきたが、以前は一日の中でXANXUSの声を聞ける機会は
殆どといっていいほどなかったのだ。

何か彼に話しかけても、大抵の場合は拳や靴底となって返ってきたし、
たとえ言葉で返ってきたとしても短い一言で終わらせられるのが常だった。
そこから考えると大進歩だ。

これも、大マフィアのボスとなって身についた威厳と余裕から来ているのだろうか。











しばらくして会話も終わり、先程のような静寂がまた辺りを包む。

やがてスクアーロにも睡魔が訪れ、意識が眠りの淵に引き込まれそうになる。

閉じてしまいそうになる瞼を、彼は必死になって持ち上げる。


XANXUSがこうして自分のすぐ傍らに腰をおろしている時間を、
もう少しだけでも味わいたかった。



「やべぇ…ボス、オレすっげぇ…ねみぃ、や…」

呂律の回らなくなった声で、スクアーロが告げる。


「だったら眠りゃあいいだろ」
「でもよぉ…」

「スクアーロ」

スクアーロは突然自分の名前を呼ばれ、驚きながらも、
久々に名前で呼ばれたという事実にこそばゆいような喜びをおぼえる。

「何だぁ?」と聞き返そうとすれば、XANXUSの手がこちらに向かってきた。
大きくて節くれだった彼の手は、優しげな仕草でスクアーロの金属でできた左手に触れ、
その次には、これもまた優しい手つきで、きらきらと光を反射する髪を梳いてきた。



 クーデター成功の夜に切った銀色の髪は、XANXUSの手の中でさらさらと音をたてる。


「う゛ぉぉ…なんだぁ、いきなり」

「………」

XANXUSは何も応えないのだが。



――夢みたいだぁ……

スクアーロはそう思った。


自分の、XANXUSへの想いと誓いの結晶である髪に触れてくる手、少し照れた彼の表情、
まるで自分たちを祝福するかのように降り注ぐ陽光に、心を満たされ、嬉しさで涙が溢れそうになる。



「大好きだぜぇ、XANXUS」

次第に遠くなる意識の中、心からの言葉と最高の笑みを、
スクアーロはXANXUSに贈った。

















ふっと、目が覚めた。
まるで、水底を漂っていた意識が急に上昇したかのようだった。
夢の中の、あたたかさと光に包まれた場所とは一転して、簡素なベッドの周囲には、
初春のまだ冷たい空気と月明かり一つない夜がつくりだす暗闇しかない。


まだ、夢から覚めたのだと実感のわかないスクアーロだったが、
のそりと上体を起こして冷えた夜気に頬をあてている内に、先程の幸せ過ぎる光景は全て夢であり、
今いるこの殺伐とした空間こそが現実であるのだという事を理解できた。


夢みたいだと思った出来事はやはりただの夢で、
触れてくる手はなく、照れた表情で隣にいるXANXUSもいない。


「………っ」


会えない寂しさと、彼に恋い焦がれる気持ちが、
このような夢を見せたのだろうか。

夢の中とは別の意味で涙が込み上げてきた。


痛覚は無いはずなのに、XANXUSに触れられた左手や髪が
ズクズクと疼くような気がして、余計に虚しい。


スクアーロは、溢れ出る涙をごしごしと擦って毛布にくるまる。



枕に顔を埋めると、夢の続きをまた見れるような気がした。




3月13日。
S.スクアーロ、16歳の誕生日だった。




fin.

-----------------------

鮫誕おめでとう小説です。
暗いですね……

お誕生日なのにゴメンなさいっ!!!


このお話は、
小/野小/町の有名な和歌
“思ひつつ〜〜さめざらましを”
にXS的な着想を得て書いたものです。

逢いたくても逢えなくて、
ずっとその人の事を考えていたので、ついにその人が夢に出てきた、っていうアレです。

「コレ、もろザンスクじゃん!」
と思ってしまいまして(笑)


話の内容的に、夢のまま終わらせるのもいいかなぁ…とも考えたのですが、
結局夢オチかよ!っていう元ネタに沿いたくて、結果スクが可哀相な話になってしまいました(泣)

ゴメンね、スク…
悪気は無いんだよ!(←



とにかく!スクアーロ、
★Buon compleanno★

ボスと仲良くね!


そしてここまで読んで下さった方、
お付き合いいただきありがとうございました^^

私、香山さよは
スクとボスが幸せでありますようにと
いつも願っていきたいと思います!!!


あきゅろす。
無料HPエムペ!