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物思いにふけっていた隼人は、ハッと我に返る。
無意識の内に動いていた手の行方は、負傷した左肩。
銃痕こそあるものの、とうの昔に完治した。

「瀞…か」

もう何年も前の事だというのに、鮮明に覚えている。
しかし覚えているのはそこまでで、どうやって助かったのか、瀞がどこに行ったかなどは全て闇の中だった。
探す手だてもなければ、瀞という名前だって今思えば名字もない、偽名かも知れない。



「隼人兄さん」

ハッと聞こえた声に振り向けば、部屋の入り口に立っている夜美。
咄嗟にコートを隠そうとしたが、それより早く夜美の視線に囚われてしまった。

「これは…」
「うん、知ってる。界さんのだよね」

さも当たり前のように言った夜美に、この弟はどこまで何を理解しているのか分からなくなった。
少なくとも、自分よりは界の事を分かっているようだ。

「あいつは、………お前は、どうやって助かったんだ」
「界さんに助けて貰ったんだよ」
「それは分かった。でもどういう状況で、どうやって」
「隼人兄さん、それは知らなくていい」
「っ、」

強い目だ。
何かを守ろうとするかのような、そんな目。
常人とは違う翡翠の綺麗な目が、隼人の中の何かを止めようとしているようだった。

隼人はそうか、とだけ言って、コートを部屋の隅に掛けて部屋を出た。
ごめんなさい、という声が密かに聞こえた気がした。





















何とかしてイードは界として寮の自室に戻った。
リビングでテレビを見ていたジョーカー、もとい郎はおかえり、と短く言う。

『続いてのニュースです。誘拐、監禁されていた疑いのある比嘉財閥の次男、比嘉夜美被害者が先日―――』
テレビの音声と視界に入って来たブラウン管ごしの人物に界は少し驚いたが、すぐに視線を郎に戻した。

「どこ行ってたの」

黙っている界を余所に、郎は近付いて俯いている界の手を引き、近くのソファにその身体を倒した。
突然の事に驚いている界だったが、郎はそのまま片方の手で界の両手を頭上で纏め、もう片方の手でシャツのボタンを外し始めた。
静かに抵抗し暴れるが、止むなく前を全開にされ肌がさらけ出される。

「イード…って、今は界か。最近さぁ、傷多くなったよな」

負傷した腕の上から容赦ない力が加えられて、界は溜まらず苦痛に表情を歪める。
片手は肌の上を這い、まるで何かを確かめるような手つきだった。

「つぅ…っ―――」
「熱いね。発熱してんの?」

はぁはぁと荒くなり始めた息に、視界までもがボヤけてきた。
そういえばと思い、今更ながら自分の身体がいつも通りでないことに気付いた。
抵抗することにも疲れを感じ、そのままさせたいようにしていたら、首筋あたりに少しの痛みを感じた。

「お前は何がしたい……」
「お戯れだって。無愛想だけど色気だけは凄まじいんだよなぁ」

何の話だ、と反論しようにも、もうその気力さえ奪われそうになったいた。


だんだんと塞がる視界に意識を手放す直前、頬が何か柔らかい感触に包まれた気がした。







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あきゅろす。
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