14
「―……」
幼いなりに冷静に状況確認をしようとすると、ふと耳にカン、カンという鉄の地面を蹴る複数の足音が聞こえた。
―ヤツらだ。
直感で自分を攫った犯人だと思った隼人は、不自然にならない程度に目覚めた時の体勢に戻り、目を閉じた。
「ホントにこの餓鬼がそうなんだろうな」
「僅かな情報からですが、年齢は小坊くらい、黒髪に黒目です。それに、船に居た餓鬼で当て嵌まるのはそいつしか居なくて…」
「消去法だと?確実じゃなかったら後がメンドーになるんだよっ!」
「ですが相手は餓鬼と言えど組織の人間……」
長々と人の真上でされている会話は自分が起きていると知らずに尚も続く。
そこから聞こえた単語は、波なみと平和の湯に浸かっていた隼人には想像も出来ないことだった。
“組織”、“殺しておく”、“死神”、“潰す”、“利用”、“脅せば”―――…
隼人の幼いながらの頭で会話から拾ったのは、『少年が命を狙われている』というざっくりとした内容。
黒髪黒目で隼人の脳裏に思い出されたのは、今にも冷たい海に飛び込もうとしていた儚い少年の姿だった。
やがて、2人の会話から察して、もう1度客船内を探すという名目で奴らは出て行った。
何とか無事だった隼人が安心して目を開けたそこには。
「かわいそうに」
「っ!!?」
驚きで大声を上げそうになった口を目の前の奴は飄々と手で覆って来た。
瀞だった。
―誰のせいだと思ってんだよ!
出したい言葉は塞がれていて出せない。
確実ではないが、自分は相手側の誤解から、今目の前に居るこいつの身代わりをさせられているのだと思った。
この、自分と同じ黒髪黒目をした少年の―――…。
口を覆っていた手を外され、少し咳き込んでからキッと瀞を睨んだ。
「お前、何者だよ。何でか知らねーけど、お前見つかったら殺されるぞ」
「知ってるよ。職業柄そういうのは慣れたしね。でもこの際もう…疲れたしな」
「職業柄?お前小学生だろ?疲れたとか抜かしてんじゃねーよ、ガキ」
隼人の言葉に、瀞はただ苦笑いするだけだった。
「君はここに居なくていい人だ」
縄を解かれ、自由になった手をブラブラ振って異常がないか確かめた。
瀞のその声が脳にまで届いたのは、手首に少し縛り後があるのを見つけた時だった。
「お、前は…?」
「早く行かないと来るよ」
誰が、なんて分かってる。あの2人だ。
「お前もだろ、行くぞ!」
「行かないよ」
―………………は、何言ってんだこいつ。
隼人はそう思うしかなかった。
自分が殺されると分かっていながら、何故回避出来る今にそうしないのか。
何故、自らそれを望むのか。
「お前、ここに居たら―――」
「だからだよ」
どう考えても、瀞の思考を理解しようとしても出来ない。
そう結論付け、瀞の腕を力強く掴んだ。
抵抗されたがめげずに何度も連れ出そうとした時、再び聞こえた恐怖の足音。
その音に囚われていた隼人は、瀞に思いっきり腕を取られて反対側にある扉を開けて押し出された事に気付かず。
気が付けば扉の前で呆然と佇んだ状態だった。
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