03
あぁー疲れた…。
哲之とか可愛い顔して度胸満点なんだもん…。
俺は今日も寂しく1人で寮部屋のソファで寝転んでいた。
俺の同室者は松嶋豊樹つって、この前見たけどすげぇおっかない奴!
人の手の甲に躊躇いもなく食用フォークブッ刺す奴初めて見た…。しかも貫通してたし!
思い出すだけで身震いするってもんだ。
何かいい番組ないかなーなんてリモコンの電源ボタンを押した時、扉の開く音。
振り返ると、転入して一度も開いたり開けたりしたこと無かったその…松嶋豊樹の自室へ繋がる扉が開かれていた。
「…無断侵入とは度胸あんのな」
そう言って切れ長の鋭い眼光を光らせたのは、俺の同室者の松嶋豊樹だった…!
ウルフカットの赤髪が似合ってるけど、眼光が怖い!
うわぁ…体がいつになく硬直する!
ありえねぇ…怖くてしょうがない。
でも、こいつも同じ人間なんだ!話せば分かり合える。
「俺、同室者の倉持ゆくえ!この間てん…」
「黙れ。うっせーんだよ。同室ってのは分かったからそれでいい」
…は?
はあああぁぁぁぁ!?
「お前!俺が喋ってる時に黙れはないだろ!」
「…」
な、なんだよ!その無言の圧力は!
怖くないぞ…同じ人間なんだからな!
「…可愛い顔してっけど、パスだな。殺されたくなかったら黙っとけ」
言ってる言葉は不可解極まりないけど、何故か言い返せない。
もう、目の前の同室者が同じ人間だとは思えない。
何故って…怖い。
恐怖しか感じない。
そのまま部屋を出て行こうとする松嶋を止めることも出来ず呆然と見送る。
「祭り、テメェも行くか?」
「…は?」
突然の言葉に、俺はそう返すしかなかった。
後ろでバライティ番組の司会者がやたら盛り上がっている声だけが部屋に響いていた。
だから聞こえなかった。
「血祭りだけどな」と言い出て行った、松嶋の声が―――。
◆
「で、今日はなーんで此処?」
周囲に音1つとしてない木々が生い茂った森に、5つの影が佇む。
そこは学園から遠く離れた森林の中。
「この前銃声だ悲鳴だなんだって騒がれたからです」
「面倒臭いー…守って貰ってる身で文句言うなよなー」
「学園生徒側はこちらの事情など一切知り得ませんから、自分達がどのような状況下に置かれているかなど分かる筈もないのであります…」
「クソ、相変わらず長ったらしくてうぜぇ」
毒を吐いたデーモンに、フラウドは仮面の下で眉間にシワを寄せる。
「今日はいつもよりご機嫌が悪いようで?」
「うるせぇのは変人だけで十分だ」
「変人、というのは否定しませんが相変わらず口が悪いようでありますな。しかし…某以外にもデーモンの付近に煩わしいのが?」
「あー…ソレ俺も覚えがあるー!」
ま、同一人物かは分かんないけど。
おどけるように言ったジョーカーに、デーモンは舌打ち。
「まぁ今更ですが、生徒を守るというのはついでで、目的は学園にある“何か”を守る事ですけどね」
傍らの木の頂点、4つの影とは離れた所に1つの影が佇む。
1つの影―――イードは、只迫って来つつある刺客を待ち構えていた。
(Reveal…)
頭のどこかで引っ掛かりを覚え、又考査すれば少しの頭痛を訴えるその言葉。
そして、次にふと思い出されたゆくえの姿。
誰なのかは分からない。
只、自分に深く関わっているような気がする、というだけで。
元々記憶が曖昧なイードは、断片的に脳裏に在る映像だけが、自分の中での昔の記憶のピースであった。
自分の中では何かを訴えていた。
分からないのだが、何かがある…それだけは分かった。
隼人の姿を見た時も然り。
(曖昧だ)
全てが曖昧で、散らばっているピース。
(分からない…)
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