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「生きているか」

手足も鎖で繋がれ、服もボロボロになっているその人間は小柄で、少年だった。
ゆっくりと顔を上げた少年のその瞳は綺麗な翡翠だったが、全てを諦め絶望した後の虚ろな目でイードを見ていた。
それもそうだろう。
最初の部屋へ入った瞬間煙草の臭いと共に掠めた青臭い臭いは、明らかにこの少年が関係した情事の臭いなのだから。

イードは鍵を断った特性の刃物で檻を断つ。
じっとこちらを見つめる小柄な少年の手足に繋がれている鎖も断ち、細過ぎる腕を持って立たせる。
自分の胸までの高さしかない身長の少年の手を引き、連れ出そうと歩かせる。


「待ちな、そいつは置いてけよ死神さん」

声と共に振り返ると、部屋の入り口にはスーツ姿で佇む中年の男。
その隣には誘導するように指示した男。
当たり前の展開にイードは何も言わず、相手の出方を見る。

「大事な大事な坊やでよぉ…勝手に連れてっちゃ困るんだよなぁ」

ふざけた挑発するような言い方をする中年男。
後ろにはいつの間にかズラリとガラの悪い連中が集まっていて、その手にはバットや鉄棒、銃や木刀が握られている。
日はもうとっくに昇っているが、しかしこのビル周辺は閑散としていて廃墟が多いために、銃を撃ったとしてもあまり気付かれないだろう。

「…やれ」

男の合図と同時に、どっとイードに群がる。

上からの命令はここの始末。
少年の事は事前に収集しておいた情報によってのイード個人の行動。

命令である本来の目的を果たすイードも、迎え撃つため地を蹴った―――。




























なーんで休日までこうなるかね。

「どう?用意出来た?」
「……まだ」


今日は昼まで寝て、それからノロノロ起きてまったりゆったり過ごそうと思っていたのに…。
又もやゆくえのせいで俺の予定は全て打破。

「楽しみだなー!此処来てから街おりんの初めてだし!」

…そうだ。
今日は朝からゆくえと共に出掛け、街におりようという予定外な予定が出来てしまった。
しかもこんな朝から。ちなみに今7時。


「…はぁ」
「早く!俺さっさと行きたいんだけど!」

なら1人で行って来い。
…と言いたい所だが、俺も実は久々に街へ行く為に少しの高揚感を感じていたりいなかったり……。


「ちょっと待っとけって」

























あの後、イードは1人残らず始末してその場を離れた。
戦闘中に黒い仮面が剥がれてしまった以外の被害は無く、仮面が剥がれて素顔を見られても相手は始末されている為に何の問題もない。
後は組織が依頼した掃除屋が全て片付ける手配になっている。

まだ早朝と言っても日は昇っている。
ボロボロの服を着た少年の手を引いてビルから出て暫く歩き、街の裏路地まで行く。

「名は」
「…」

じっとイードの顔を見る少年は、暫くの沈黙の後口を開いた。

「夜、美…」
「では夜美、俺の言う通りにするんだ」

まず警察へ行く事。
事情を聞かれるだろうから、イードの事以外事実を全て話せばいいという事。
辻褄が合うように上手く話をする事
警察まで来れたのは、隙を見て逃げてきたと言う事。
少年―――夜美はひたすら頷く。
その目にはほんの、ほんの少しだけ虚ろが薄れていた。

「俺の事は他言するな、今ここで全て忘れろ」

ひらすら頷いていた夜美が、イードのその言葉だけは頷かなかった。

「守れなければ、お前を殺さなければならない」

翡翠の目を強く見て言うと、夜美はやっとというように頷いた。
了承したようにイードが一度頷くと、行けと言うように裏路地を抜ける道を見る。

ふと腰に衝撃が来たかと思うと、見れば夜美がイードの胸に顔を埋めて抱き付いていた。
突然の予想外の出来事で避ける事も出来ず、ギュウと腕に力を込める夜美にイードは戸惑う。






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あきゅろす。
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