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短編
二人の約束−06
それからの俺は変だった。
顔を見るたびにドキッとするし、声を聞いてるだけで落ち着くし、少しでも一緒にいたくて無理矢理話は長引かせるし……。
ひなたは特に気にすることなく、というかむしろ今までより楽しそうに俺の様子を見ている気がする。いや、多分何かのフィルター掛かってる。あ、目が合ったあああああ笑ったあああああ!!

直視出来なくて俯きながら眉間を揉んでみる。よし、なんとか落ち着いてきた。無駄にきりっとした表情を意識しながら顔を上げて、ひなたの顔を見てみる。
俺はそこで、なんだか具合の悪そうな…少し顔色の良くないようなひなたの様子に気が付いて、少し身を乗り出す。

「ひなた?もしかして、具合悪い?」

「……大丈夫だよ。昨日寝付きが悪かっただけだから。」

寝付きが悪い、というのはきっと誰にでもあることのはずだ。でもひなたのそれは単純に体調が悪いようにしか見えず、どうしようかと一瞬口を閉じる。そして俺はベッドを降りて車椅子に乗り込んだ。

「裕人…?どこか行くの?」

「飲み物買ってきてやるから、お前は待ってろ。なんならベッドで寝ててもいいぞ。」

「嫌だ、裕人…俺も行く。」

「バカお前、またぶっ倒れても知らねーぞ。」

「裕人……。」

どこか寂しそうに俺を呼ぶひなたの声を後ろから聞いて、俺は急いでエレベーター横の自販機へと向かった。

購入したのは、もちろん紅茶花伝とカフェオレ。それらを膝に乗せて病室へと戻る途中慌ただしく廊下を走る音が聞こえて、俺は道の端に寄った。


なんだろう、この胸がざわつく感覚―――。


無意識に心臓の辺りを右手で掴むと、医者と看護師に付き添われて担架で運ばれる人の姿が見えた。

見覚えのある髪、鼻、唇、服……。



ひなただった。




膝からカフェオレが転がり落ちたのにも気付かず、俺はひなたが運ばれていった方向をずっと見つめていた。

また、ひなたが倒れた。具合が悪そうだったのに、なんで俺は看護師にそのことを言わなかった。そうすれば倒れる前に何か出来る処置があったかもしれないのに。

今度こそ、死んじゃうんじゃないか。
もう二度とあの笑顔が見れないんじゃないか。
もう二度と温かい手を握ることが出来ないんじゃないか。

最悪の事態を考えて、俺は瞳から溢れる涙を止めることが出来なくなった。



ひなた、やめろよ。
俺を一人にするなよ。


一人は慣れていたはずなのに、俺は今お前がいなくなることがこんなに怖い。



ぼろぼろと壊れたみたいに涙を溢していると、顔見知りの看護師が俺に気が付いて近付いてきた。

「柴田くん、どうしたの?どこか痛い?」

「違う、ひなたが…ひなたが死んじゃったら、どうしよって……!俺、すげーこわい…どうしよう、俺嫌だよ、ひなたいなくなんの嫌だよ…!」

俯いて首を左右に振れば、涙が落ちてパジャマの布に染みがじわりと浮かぶ。看護師は子供みたいに泣く俺に呆れることなく、肩を掴んで顔を覗き込んできた。

「大丈夫、ひなたくんは絶対戻ってくるよ。信じてあげよう?ひなたくんも今頑張ってるから。」

「……うん。」

そうだ、ひなたも頑張ってるんだ。なのに俺がこんなベソベソ泣いててどうする。

両手で頬を勢いよく叩いて、車椅子を進める。先程落とした缶を看護師に拾ってもらって「どうも。」と礼をして病室へと向かおうとする。

しかしそこでふと振り返って看護師に顔を向ける。




「ねえ、ひなたってどこの病室?」

「ああ、ひなたくんは……」




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