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短編
二人の約束−04
ひなたが死んだらどうしよう。

俺の頭の中は日々そんなことばかり考えていて、ベッドの中であまりにも静かにしているものだから同じ病室の人たちも心配そうにこちらを見てきた。

あの日、俺と一緒に外に行かずに大人しくここで話していたらひなたは倒れなかったのかもしれない。もう少し早く戻ってたら倒れなかったのかもしれない。今ここで考えてもどうしようもないことばかり浮かんで、ぐるぐると頭の中を回って他のことは何も考えられなくなる。

今日も不味い病院食を残さず食えと看護師に念を押されて渋々完食すると布団に潜り込んだ。ひなたがいない一日は……長すぎる。

はあ…、と溜め息を吐いて頭まで掛け布団を持ち上げて無理矢理眠ってしまおうと目を瞑って羊を数え始めたところで足音が聞こえてきた。食器を下げに来た看護師だろうか。
気にせずに布団に潜ったままでいると、布団が剥ぎ取られて一気に視界が明るくなった。なんだこれ、眩しい…!目を細めながらその犯人の顔を見て、俺は勢いよく体を起こした。

「な…っ!?ひ、ひな、ひなた!!えっ、ちょ、お前大丈夫なのかよ!体調は?まさか幽霊とかじゃないよな!?」

「しー、裕人静かにしないとダメだろう?」

「あ、うん……。」

あまりにも興奮しすぎて声のボリュームがMAXになってしまった。食器を下げに来た本物の看護師に軽く頭を叩かれる。普段なら睨みの一つや二つ浴びせるものだが、今はそれどころではなかった。

「ほら、ひなたとりあえず座れ。大事な体なんだから。」

「俺は妊婦か。」

軽口を叩きながら腰を下ろしたひなたがあまりにも普通すぎるので、もしかしたらあのとき倒れたのは夢だったんじゃないかとも思ったが、腕には点滴からの管が伸びており、横にはいつもは見ない点滴のパックがぶら下がっている。

「……ひなたが無事で、よかった。」

ぽつりと呟くとひなたは穏やかな表情で俺の手を取り、そっと包み込んだ。温かい。その手の感触を確かめるようにぺたぺたと触ったり、軽く握り締めたりしてみる。ひなたはおかしそうに笑った。

「大袈裟だよ。これぐらいなんてことない。」

「なんてことあるよ…!俺、目の前でお前がすげえ苦しんでるとこ見ちゃったんだぞ!」

「裕人、声。」

「……っ、とにかく、心配だったんだよ。」

興奮して声が大きいとまた宥められ、罰が悪そうに視線を逸らしながらもごもごと伝えると触れた手に少し力が込められた。

「ありがとう、裕人。」

「どう、いたしまして……。」

しばらくお互い手を触ったままだったが、どちらともなくするりと離してまたいつも通り会話をし始める。やはりひなたと過ごす時間が経つのはとても早い。看護師が入り口付近に来て「秋月くん、そろそろ病室戻ってね。」と声を掛けた。ひなたはそれに短く返事を返して立ち上がる。がらがらと点滴を持って移動しながら帰ろうとするひなたの袖を軽く引いてみる。

「ひなた……お前、どんな…病気なの?」

病気のことを聞くのはタブーだとも思ったが、咄嗟に口を出たのがこの質問だった。何やってんだ俺。
袖を引かれて振り向いたひなたは、一瞬ぴくりと眉を動かしてからにこりと笑った。

「恋の病、かな?胸が苦しいー。」

「うっせえ、さっさと帰れよバカ。」

「あはは。じゃあまた明日ね、裕人。」

「おー、また明日。」

ひらひらと手を振ってひなたは自分の病室へと帰っていった。俺はベッドに身を沈めて息を吐く。




病気のこと…言いたくないのかな。

バカみたいな返ししやがって。




でも、どんな病気でもひなたはひなた。そう考えて俺は明日が待ち遠しくて、夕飯を食べて色々と済ませた後さっさと眠りについた。





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