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こんな特別な日(鉢くく)



「うっわ、いやに寒いと思ったら雪降ってんじゃん」

学園長のお遣いで金楽寺に来ていた三郎と兵助は、和尚に書簡を届け外に一歩踏み出すと白い塵のように舞う雪を目にし、思わずはぁと息を吐いた。仕方無く和尚から一つ傘を借り、二人寄り添って入る。
二人で廊下を歩いていた時にたまたま学園長に出くわし頼まれたお遣い。他に用も無いし、帰りに茶屋にでも寄ろうかと言って二人連れ立って出て来たはいいものの、用事が終わってみれば道には既にうっすらと雪化粧が施されていた。積雪時特有の静けさの中暖かい茶屋目指し、しかしのんびりと歩き始める。

「俺、雪好きだな。積もったら雪合戦しよーぜ」

あ、でも先に一年が遊んでそうだな。いつもは真っ白な頬を赤に染めつつ兵助は笑った。

「てゆか兵助すげー薄着じゃん」
「そうか?でもあんま寒くないけど」
「げ、おま、大丈夫かよ」

風邪引いてんじゃねーの、三郎は案じたがそういえば彼は平生から何となく体温が高い気がした。現に今も、傘を持つ三郎の腕に捕まる兵助の掌からは心地良い暖かさが伝わってきた。

「昔から寒さには強い方だしな」
「見てるこっちが余計寒いわ」
「冬生まれだからかなぁ」
「そんなもんなのか?」
「知らね」

冬生まれと言えば、つい最近雷蔵の誕生日を祝ったばかりだなと、三郎は思い出した。彼と同じ魚座の兵助の誕生日も、もう直ぐそこまで来ていた。
大切な彼の為に、誕生日はまた違う特別な物を贈りたいと考えていた。

他人の生まれた日が、自分にとっても特別な日になった。そんな風に思える時が来るとは。天の邪鬼でひねくれ者だった自分を変えたのは、他でもない兵助だった。それだけじゃ無い。今日の様な何でもない日にも、幸せを感じる事が出来る。


三郎は思った。

「ぜーんぶ、お前のおかげだな」
「あ?何か言ったか?」
「いや」

何でも無いと三郎は言って、不思議がる兵助のその白い息さえ逃すのは惜しいと、ぼんやり思った。













09,3,12




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