35.0℃(鉢久々)
※現代
それは兵助の平熱だった。
感情の起伏が乏しい、肌は白い、そんな相乗効果もあり余計に冷たい印象を周囲に与えた。
実際、指先などはいつもひんやりしていた気がする。
ある日兵助が風邪を引いた。
他の連中は予定があるからと様子見役を押し付けられ、仕方なく兵助の家に足を運ぶ。
「生きてるか?」
コンビニ袋をガサガサさせながら勝手知ったる(普段から俺達の溜まり場だ)室内に踏み入れば、出迎えたのはベッドの膨らみだった。
「三郎…?」
すっぽり被っていた掛け布団から兵助は眉根を寄せ苦々しい顔を覗かせた。
頬と耳が真っ赤で目を細めるその姿はかなり珍しいものだった。
「とりあえず薬飲めば?買ってきたし」
「さんきゅ…助かった」
死の淵をさ迷ったような様相でのそりと手を差し出す。反射的にその手に解熱剤を持たせる。その一瞬に指先が触れた。
兵助の身体が熱い。
「なぁ」
「あ…?」
「ヤると熱下がるって言うよな?」
薬を水で流し込みながら兵助は更に眉を寄せた。
働かない頭をフル回転させているのか微動だにしないので、空になったコップを取り上げて汗でじっとりするシャツの下に手を滑り込ませる。
「…っ!ふざけんなやめろ触んな!」
「暴れんなよ、ちょっと試してみるだけだから」
抵抗する兵助の手を取り、指先を口に含み舌で触れる。
いつも氷のように冷たいそれ。
「今日は、熱いんだな」
殆ど汗をかかない兵助の、今日は湿った襟足に鼻を寄せると香る兵助の匂い。
吐く息すらも熱くて、どうやら普段より熱くなってしまったのは俺の方も同じのようだ。
「治ったら…覚えてろよ三郎」
そう言って兵助は諦めたように脱力した。
END
11,11,09
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