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余話(竹久々)








普段生物の世話をしているせいか面倒見がいいと思われがちだが、それは大きな間違いだ。
動物は愛情を注ぐ程に信頼という形で帰ってくるが、人間の世話ほど疲れるものはない。
仮に俺が面倒見がいいとして、それは生物に限ってのことだ。



本来なら模範になるはずの天才と秀才は、とにかくよく問題を起こす。
他愛ないものから辛い罰則を受けるようなものまで、その度に俺は雷蔵と共に振り回される。
問題を起こす天才でもある三郎は何度怒られても反省していない。昔からそうだった。
きっと悪戯は三郎の趣味の域を越えて、日常と化しているのだ。

そしてもう一人の問題児である久々知兵助は、俺の大切な人でもあった。


面倒事に巻き込まれて振り回されて、しかしそんな日常に特に不満は無かった。何だかんだ言ってもみんなで騒ぐのは好きだし、それに付随する罰則だってあいつらとなら楽しいものだ。
兵助との関係だって良好だ。…たまに俺より豆腐を取ることを除けば。

ただ何となく、本当に些細な変化だけれども、負の感情が刹那的に芽生える事があった。
それは兵助が三郎と楽しそうにしている時だった。
騒ぎはいつも三郎が発端だ。それを兵助が無自覚に大きくする。俺はどちらかと言えば場を宥める方の立場だから、中心はいつも三郎と兵助だった。
学年きっての問題児達が何事かを企んでいる時、感じるのは疎外感か、それとも…





その日、兵助が部屋に来た。慣れたもので勝手に寛ぎながら書物に目を通している。
二人きりになったのは久しぶりだったなぁと思うと自然と顔が緩んだ。
そんな時だった。

「そういえば三郎が、」

俺は目敏く反応した。
ここに来る途中三郎がまた仕出かしたことを兵助はぽつりぽつりと話している。
たったそれだけの事なのに、途端に心が靄に包まれたような感覚に陥った。

「…そんなに楽しいならさ」

「?」

「俺なんか放っといて、三郎と連んでりゃいいじゃん」

出てきたのは思いの外低い声だった。
嘘だ。本当はそんなこと思ってない。これはただのやきもちだ。
兵助が好きで好きで、好き過ぎて心のゆとりも持てないくらい。たった少しの事でも気に入らないくらい。これは言い訳にしかならないだろうけれど。

「はちのばーか」

心の内を見透かされたかのように罵倒され少しむっとしたが、ちらと兵助を見ると長い睫毛は水滴で濡れていた。

「わっ!な、泣くなよ」

「ばかばかばかばーか」

「…ああ、本当にな」

流れる涙を袖口で拭いてやる。不満そうに歪んだ表情で、しかしされるままに大人しい兵助を引き寄せて柔らかい髪ごと強く抱き締めた。
しゃくり上げる程の大泣きでは無いものの、静かに流れる涙だからこそ余計に胸が痛んだ。

「ばか。でも、好き」

だからもうそんな事絶対言うなよな。

そう零した兵助の声は驚く程小さかった。きっとそれは少しの照れ隠しで、少しの悲しみによるもの。
それでも背中に回された兵助の腕に抱き返されて、顔がにやけてしまった事には気付かれずに済んだようだ。

兵助は余り感情を表に出さない。俺は馬鹿だから、些細な事で不安になって、餓鬼みたいな嫉妬で泣かせてしまうけど、そんなのも全部ひっくるめてお前との大事な出来事なんだよ、兵助。
こんなことがあったよなって、ずっと先に笑って話せるように。


己の拙さと幼稚さと、兵助への想いを思い知った、そんなとある日の話。







END




アニメブックの問題児2トップ設定を使わせて頂きました。
リクエストありがとうございました!

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