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蜘蛛の糸(土井久々♀)
※教師と女子高生







薄暗い部屋に設置されたソファーに横たわりぼんやりしていた。
すうすうと冷たい空気が腕を撫でて行く。衣替えの季節を迎え、半袖のシャツはつい先週引っ張り出して来たばかりだ。
人がぎりぎり二人座れるだけであろう窮屈なソファーは手足をきゅっと縮めていないと寝転んでいられない。小さなそれに収まるように丸まっている今の自分は、端から見れば胎児か何かのようだったと思う。

今は授業時間帯のため校舎内は静寂に包まれ、遠くから教鞭を取る教師の眠たげな声が聞こえた気がした。

ここは国語準備室であり、事務机のある入り口側とは本棚で区切られ死角になっている休憩スペースだった。なぜ授業中にこんな所に居るのかと言えば、さして理由は無い。強いて言えば、今まさに向かいのソファーに座り教材を読み込んでいる教師、この部屋の主である土井半助。彼に会いに来たのだ。
先生は「また来たのか」と言うけれどいつも笑って招き入れてくれるから、一応許されてはいるのだろう。
パラパラと紙を捲る音が断続的に響く。その指先を眺めながら、只々丸くなって目を閉じた。

どれ位そうしていただろうか。静寂を破って響くチャイムに微睡みかけていた意識を引き戻された。
昼休みの時間だ。同時にざっと騒がしくなる校舎。頃合いを見計らって先生は立ち上がる。

「どちらに行かれるんですか土井先生」

先生と呼ばれた男は資料を片付け背広を着直した。

「君の昼食を調達して来ないとね。あと自分の分も」

「そんなの」

「放って置いたら食べないんだから、私と居るとき位ちゃんと食べなさい」

でないともっと痩せてしまうよ。
柔らかい笑顔の裏に自分を案じる意図が伺え、食欲は無いと言い出せなかった。

「お願い、ここに居て下さい」

喉を通らない食物よりも、先生が欲しいんです。
窺うように首を傾げれば、先生は困ったように眉尻を下げた。

「痩せた身体を抱く気にはなれないですか?」

だったら幾らでも食べますけど。
言って、制服の釦を外しにかかる。ひやりとした空気に身震いしながらもスカートに手をかけると、先生の手が伸びてきて制止された。たっぷり不満を込めて見上げるとまた困ったように笑った。

「楽しみは取っておくよ」

男の手が脱げかけたシャツの釦を一つ一つ留めていく。大人しくその手をじっと見つめる。
きっちり留められたボタンと胸元のリボン。シャツの裾はスカートの中に収まっている。
いよいよこの部屋から出なくてはならなくて、力一杯先生を引っ張った。

「お、わ」

バランスを崩して倒れ込む先生を跨いで馬乗りになり、上から見下ろす。結われていない己の長い髪が先生のスーツに絡み付くように垂れ下がっている。
まるで蜘蛛の巣に捕まった蝶ですね。俺は決して貴方を逃しませんよ。
けれど先生、気付いていますか。蜘蛛の巣に捕まったのは俺の方なんです。いつまでも抜け出せないでいる。



せめて土井先生が担任だったら良かったのに。
そう呟けば大きな手で頭を撫でられたから、一層離れ難くなってしまった。





END.




助けて下さい、手遅れになる前に。





10,6,15
アダルティというかダーク…?
リクエストありがとうございました!

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