情緒前線(鉢屋と久々知)
※竹久々・鉢雷で、鉢屋と久々知
優秀な忍になることは、果たしてたった一つの幸せの形なのだろうか。
最近、もしかしたら他にも道があったのかもしれないと思う様になった事は否定しない。忍者ではない、商人の自分。船乗りの自分。農家の自分。『もし』だなんて考え出したら、可能性は無限にある。
つまり俺は、迷っているんだ。忍になることを。
「考え過ぎさ」
そんな事を愚痴ってしまった俺に向かって、事も無げに三郎は吐いた。
「大体、今更忍の道以外を選んだ方がよっぽど不幸だと思うけど」
この学園で必死に生きてきた5年間の自分を否定することになるしな。
詰まりは忍たまとして過ごした時間も、身に付けた技術も、無駄になると言いたいらしい。
でもさ。無駄、って何だろう?忍者になって忍務に就き、若くして死したら命の無駄にはならないのか。もしかしたら有るかもしれない商人の、船乗りの、農家の才能は、無駄にならないのだろうか。ああもう。次々に溢れてくる疑問に吐き気がしそうだ。
「そーいう悩みはいずれみんな通る道なんだよな。好きなだけ悩むと良いさ」
あれこれ悩めるのは今だけ。忍たまの特権なんだから。悩んで、足掻いて、どうしようも無くなったらまた愚痴でも相談でも聞いてやるよ。
そう言って去って行く三郎の背中を見送りながら、きっと三郎は、俺より先にこの葛藤にぶつかっていたんだなと思った。
そして彼なりの『答え』を出したんだ。
きっと三郎のその真っ直ぐな視線の先にいるのは、双忍と呼ばれる彼の相方が居て。そしてその相方もまた、真っ直ぐに三郎を見据えている筈。
それが彼が、彼らが出した答えなのだ。
三郎のその背中が少し頼もしく見えて、自分がいやにちっぽけに思えた。居ても立ってもいられずに俺ははちを探すため足を踏み出した。
彼に会いたい。
会って、そして何を言おう。
何でもいい。今思ってる事を伝えてみよう。
はちは忍者になるの?どうして忍者になりたいの?もし忍者じゃなかったら何になるの?二人で商いでもしてみようか?漁に行ったり、畑を耕したり、南蛮に渡ってみるのはどうかな?
俺の陥ったこの混沌と葛藤の渦に巻き込んでしまうかもしれない、彼の足を引っ張ってしまうかもしれない。
それでも、彼の手を離したりはしない。きっとはちも、俺が答えを見つけるまで側にいて見守っていてくれるだろう。
(踏み出したその先が、必ずしも闇ではないはず)
end.
09,3,9
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