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集合(五年)
※現代






八月だというのにその日は急に寒くなった日だった。パーカーを引っ張り出してきて羽織り、全開にしていた窓を3センチだけ残して閉める。
時刻はまだ午前6時を回ったばかり。もう一度寝ようとパーカーのままベッドに寝転がってみた。が、睡魔が再びやって来ることは無く、手持ち無沙汰にケータイを弄る。
暇で仕方ないので奴らを叩き起こしてやろうと、通話履歴を開く。
開いてから思い出したが、雷蔵は昨日からゼミ合宿に行ってしまい不在だ。八左ェ門は、毎年夏休みに遊びに来る親戚のちび共の面倒を見なければならないと言っていたっけ。
それから兵助は…止めておく。誰かに起こされた時のあの不機嫌さと言ったら無い。兵助は他人に睡眠を邪魔されるのを嫌う。朝は自然に、もしくは目覚ましで起きたいらしい。寝起きは良いくせにややこしい奴だ。


仕方なしにコンビニに煙草と飲み物を買いに出掛けることにする。早朝の空気は湿気も少なく清々しい。こんな空気を味わえるなら、たまには早起きでもしてみようかなと思った。多分しないけど。

コンビニ袋をぶら下げて殊更ゆっくり歩いて帰ると、アパートの玄関前に何かがうずくまっていた。家を出た時は確かに無かったそれは、良く見るとパーカーのフードを被り扉に背を預けて座り込む兵助だった。

「三郎お前何でこんな早いの」

「まあ、たまたま」

「折角早朝突撃してお前の嫌そうな顔拝んでやろうと思ったのに」

そんな事されたら自分は激しく臍を曲げるくせに、何を抜かすかこの野郎は。

「つかお前も何でこんな早ぇわけ」

玄関に寄りかかったままの兵助を足蹴にして退かしポケットから出した鍵をドアノブへ突っ込む。玄関を開けると同時に、手ぶらの兵助は家主よりも先に上がり込んだ。

「今日寒いよな」

それで目が覚めたから暇で来てみた、と。全くもって身に覚えのあるシチュエーションである。
同じく暇していた所に丁度良くこいつが来たため気分も良くなり、茶の一つでも入れてもてなしてやろうとしたのに、兵助は寒い寒いと言ってベッドに潜り込んだ。

「ばっかお前俺のベッド取んなよ」

「だって何かここ来たら睡魔が」

「……俺だって」

コンビニに行ったからか、兵助が来たからか、理由は分からないけどさっきまであんなに待ち望んでいた睡魔が今になってやって来た。一足先に夢へと旅立とうとする兵助にぐだぐだ言っても仕方ないと、先客のせいで狭くなったベッドに潜り込んだ。






結構寝てしまったと思ったが、本棚に置いた時計を見たらまだ10時だった。あれから3時間くらいしか経ってない。早起きするとこうも一日が長く感じるのか。
寝返りが打てないせいで固くなった肩を解そうと伸びをしたら拳が兵助の後頭部に直撃した。

「てめ」

目を覚ましてしまった兵助は不機嫌の絶頂で、寝そべったままベッドロックをかけてきた。寝起きで容赦が無いから本気で死ぬかと思った。
やられてばかりは癪に触るので応戦してひとしきり暴れた。
無駄に疲れて脱力していると、ラグの上に放ったままだった携帯が短く震えメールの着信を告げた。
ケータイを開けば「不破雷蔵」の文字。

『昨日教授が急性アル中で運ばれて、やる気無くしたとかで合宿中止になった。昼頃そっち行くね』

ふ、と笑みが零れる。

「雷蔵帰ってくるって」

「え、もう?」

メール画面を開いたままケータイを手渡したその時、兵助の手の中でケータイが再び震えた。
兵助は何の戸惑いもなく通話ボタンを押してケータイを耳に当てる。おい。

「もしもし」

『あれ兵助?これお前の?まあいっか。さっき面倒見てたちび共が出掛けて俺暇なんだけどさー、どこいんの?』

「今三郎んちいるからおいでよ」

『分かった、10分くらいで行くわ』

「うんじゃあね」

思わず吹き出してしまいそうなタイミングで八左ェ門からの電話。兵助と二人顔を見合わせて笑った。

結局こいつらは呼ばなくても集まってくる。そういう奴らだ。
カーテンの向こうで太陽が元気を取り戻し始めていたので、俺は着っぱなしだったパーカーを脱いだ。





END.











寂しがりやの三郎の元に集まってくる3人。


09,8,5

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