嫌いなわけじゃない(鉢久々)
※現代
雨、雨、雨。
全く嫌になるこの梅雨時。時には雷まで降り注ぐ、天からの有り難迷惑な贈り物。
とうに浸水したスニーカーは歩く度にぐちゃぐちゃと音を立てる。ああ本当に嫌な季節。
いっそ長靴でも履いて来ればいいんだ。制服に長靴。うん、新しい。ついでにレインコートも着てしまおうか。
ジメジメの空気に逆らう気は起きず、ここの所ノーセットの髪の毛はぺたりとしおれて元気が無い。お陰で八左ェ門の奴に幼く見えると言ってからかわれっぱなしだ。痛みまくりの髪の毛のお前にだけは言われたくない。
ふと、黒髪の親友を思い浮かべた。湿気の影響を受けずぴょんと跳ねる毛先がこの時期ばかりは羨ましい。染髪で傷んだ自分のとは違い、傷み知らずのあいつの癖毛は本当に触り心地が良い。
猫に触れているかの様なあの感触を味わいたくなってむずむずしていると、思い浮かべていたそれより遥かに水気を含んだそれが目の前に現れた。
「お、三郎」
「なにお前ずぶ濡れじゃん」
張り付いているワイシャツを煩わしそうに捲り上げて、兵助は立っていた。反対側の手には傘を持っている。あるなら使えばいいのに。
「傘壊れた」
「ばかじゃん」
「いいから入れてよ」
「ばかやろっ俺が濡れる!って、あーあ…」
無理やり距離を詰めた兵助のびしょ濡れの肩が俺の肩に当たりすっかり水分を吸ってしまった。元々足下は壊滅的に濡れていたからいいけど。
「お前んち寄ってくから」
「なして」
「雨宿り。あと着替え貸して」
兵助が俺に対して横暴なのはずっと前から変わらない。猫みたいな髪をぐしゃぐしゃと撫でさせてくれたらその横暴さも許してやろうと思ったのに。生憎と今は濡れ鼠だった。
家に着いて直ぐ様シャワー室へ直行する俺の後を大人しく付いてくる兵助。道中、シャワーをどちらが先に使うか口論になって一歩も引かないお互いに、じゃあ一緒に入ればよくねという結論に至ったからだ。お互いの素っ裸なんざ今更だった。
「熱い。やめてこっち掛けないで」
「お前体冷え切ってんじゃん。だからだろ」
熱がる兵助に遠慮無くシャワーヘッドを向ける。背を向けて拒んでいた兵助だったが嫌がらせに冷たい手で腹の辺りに触れてきた。
「やめ、このやろ」
手首を掴んで引っ張る。よろけた兵助の体と密着してしまえば冷たさなんか関係無い。シャワーヘッドを壁に掛け、降り注ぐ湯の中、これまた冷たい唇を貪った。
「…風呂ではしないって言った」
「や、うん無理だろ」
目の前にご馳走を差し出されて我慢出来る訳ない。お前だって、一緒に入るって決めた時から期待してたんだろう?
「手っ取り早く温まりますか兵助くん」
「しょうがねぇな」
兵助は口角を上げながら腕を首に絡めてくる。ほらやっぱり乗り気じゃないか。
風呂から出たら、兵助の髪をドライヤーで乾かしてやろう。きっと猫みたいにふわふわに違いない。
end.
雨のせいでやる気出ないウィークでした。
09.6.17
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