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メロウ(タカ久々♀←鉢)
※現代
※兵助が女の子
※タカ丸は先輩










「え」

思わず聞き返してしまった。

「今なんて」

「だから、良いよって」

え、良いの?だって俺、好きです付き合って下さいって言ったんだよ。本当に良いの?兵助くん、俺の事好きなの?

「好きでもない奴と付き合ったりしないよ」




この春入学してきた後輩の久々知兵助くんは、非の打ち所がない容姿とそれに似合わない天然な性格から、あっという間に男子生徒の人気をかっさらっていった。
同じ委員会に属され知り合い、仕事をしている内に仲良くなっていって、俺は直ぐに彼女への恋心を自覚した。無謀だと分かってはいたが諦め切れず、根気よく交流する内に兵助くんの方もよく懐いてくれるようになった。そんな彼女に、好意は持たれてるとは思ったけれどまさかそれが恋愛感情だとは夢にも思わなかった。
兵助くんには特に仲の良い友人が3人いて、いつも一緒にいるのを見かける。鉢屋くんも不破くんも竹谷くんもみんな良い人だから、俺はもしかしたらその中の誰かと兵助くんが特別な関係なんじゃないかと思っていた。
そんな考えが杞憂に終わり、付き合い始めて1ヶ月。ついにこのチャンスが来た。誰もいない家、自分の部屋に兵助くんと二人。若い男女が密室に二人きりになれば自然とそういう雰囲気になる訳です。

「シてもいい?」

「ん…」

恥ずかしそうに頬を染め、耳まで真っ赤で、乳房に触れた時に伝わってきた鼓動はそれはもう暴れに暴れていて。
俺に反応してくれている、それだけで天にも昇るほど嬉しかった。
そんな彼女は当然セックスは初めてなんだと思ってた。だから焦る欲望を必死で抑えて殊更優しく抱いた。


でも、兵助くんは処女じゃ無かった。


キツい膣内は、だけど男を知っているそれで。
あんなに可愛くて引く手数多な兵助くんだもん、経験があったっておかしくはないと思うけど。兵助くんの処女、欲しかったな、なんて。
兵助くんの事どれだけ愛しちゃってんのかな俺。

過去を詮索しても意味が無いし、何より俺がその相手に嫉妬し過ぎて呪い殺してしまうかもしれないので、わざわざ兵助くんに聞いたりはしない。いつだって好き過ぎていっぱいいっぱいなのだから、せめてこの位は余裕ぶらせてほしい。







そうして日々を重ねた、とある日の放課後。一緒に帰る約束をしていた兵助くんを教室に迎えに行くと、彼女の代わりに鉢屋くんがいた。

「兵助なら担任に呼ばれてったよ」

「あ、そーなんだ」

こないだのテストも一番だった優秀な兵助くん。委員会では重宝され、色んな所に引っ張りだこな兵助くんは生徒会からのお誘いなんかも来るらしい。
今頃困った顔して担任の話を受け流しているに違いない。想像するだけで微笑ましい。

「ところで斉藤さん」

「なぁに?」

「兵助とはどこまでいったの?」

「へっ」

どこまで、というのはつまり男女の関係という意味で。
長く親しい友達としては気になる話題かも知れない。だからといって単刀直入に聞くことでもないだろうけど。
まぁ確かに、兵助くん本人に聞いたりしたら顔を真っ赤にして張り手を繰り出してくるに違いないから、俺に聞いてきた鉢屋くんの判断は正しいと言えば正しいのかも。

「もうヤったの?」

「ええっ」

いやいや、いくらなんでも生々しいでしょ。そんな事まで報告しなくちゃいけないなんて、それってどうなの。
しかし、兵助くんとのセックスを思い出してしまい思わず緩みそうになる顔を引き締める。けれど顔に出やすい俺の事だ、必死で堪える顔はおかしなことになっているに違いない。現に鉢屋くんは俺を見て面白そうに口角を上げた。

「ふーん、その顔はもう最後まで済ましたって顔だな」

「はは…」

「どうだった?」

「どうって、」

そりゃもう最高でしたと声を大にして言いたいがここは我慢して、鉢屋くんこそそっちの方はどうなのと聞き返そうとしたが、次に彼が口にした台詞に言葉が出なくなった。

「あいつ良い反応するっしょ。ナカも締まり良くて気持ちいーし」

兵助くんを良く知っているという口振り、悪巧みする時みたいな笑顔。
それらを分析すると、自ずと出る結論。

「…そーゆうことかぁ」

意外にも冷静な自分をどこか他人のように受け止めた。
処女じゃなかった兵助くん。兵助くんのハジメテは、この男、鉢屋くんが奪ったのだ。

例え、だ。例え二人がそういう関係だったとしてもそれはもう過去の事。俺だって過去の事を責めるほど心が狭い訳じゃない。
なのに何故彼は今こんな事を言うのか。訳が分からない。

「…今俺にそんな事言ってどうするの?」

足りない頭を振り絞って考えてみると、とてもじゃないけど聞きたくない答えに辿り着く。嘘であって欲しい。
けれど神様は意地悪だ。

「だって俺兵助好きだし」

…ほら、やっぱりね。
嫉妬や怒りや絶望、余りに色んな感情が入り混じり俺は脱力した。更に追い討ちをかけるように鉢屋くんは笑った。

「兵助ちょうだいとは言わないけど、俺、あいつから離れる気ねぇから」

本当は奪っちゃいたいけど、それしたらあいつ泣くし。一応あんたの事好きだからなぁ兵助は。
だからあいつの気持ちが俺に向くまで離れない、離さない。

「じゃあそういう訳で、さよーなら斉藤先輩」

挑戦状を叩きつけてきた鉢屋くんのいなくなった教室で俺は一人、長い事俯いていた。

他の誰かなら自信を持って兵助くんは渡さないと言える。でも鉢屋くんだけは駄目だ。兵助くんにとって存在が大きすぎる。高校で知り合った不破くん竹谷くんとは違い、小学校に上がる前から当たり前のように側にいたという兵助くんと鉢屋くん。
俺か鉢屋くんか選んでと言っても、彼女はきっと選べないだろう。
彼の前では『兵助くんの恋人』という立場さえもあって無いようなものなのだ。







職員室から戻った兵助くんと帰路につく。
俺はもやもやした気持ちを外に出したくて、詮索しないと決めていた鉢屋くんとの事を思い切って聞いてみる事にした。

「兵助くん」

「ん?」

「鉢屋くんと付き合ってたの?」

「な、に…?」

「兵助くんのハジメテの人って、鉢屋くん?」

兵助くんは歩みを止め俯いた。長い睫毛が伏せられて、とても可愛くて触れたくなるのを我慢する。たっぷり時間を置いた後、兵助くんは口を開いた。

「黙っててごめん…でも付き合ってなかったし、三郎も俺も興味本位というか、本気じゃなかったから…」

中学二年生の時、鉢屋くんに迫られて体を許したという。
幼い頃から一緒に育った彼の珍しく真摯な態度にほだされて、それから何度かセックスしたそうだ。
思春期のお遊び。そう言ってしまえば俺にだって身に覚えの一つや二つあるけれど。
鉢屋くんにとっては遊びじゃなかった。そこが重要だ。

「俺が好きなのは斉藤だけだよ…」

「うん、ありがと。俺も兵助くん大好き」

兵助くんが俺を好きでいてくれてる事は良く分かってる。けれど、兵助くんにとっては鉢屋くんもかけがえの無い存在な訳で。
兵助くんがその存在に気付いた時、あるいは……


俺はこの先、彼の影に怯えながら彼女を愛し続けるのだろうか。






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09,6,5



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