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無償の愛が存在した(タカ→くく)









「兵助くん、これは?」


「ああ、それは…」



右も左も分からない忍者の世界。四年生とは名ばかりの俺は専ら兵助くんの世話になりっぱなしだ。

同じ委員会という事で良く面倒を見てくれる。頭の良い彼は、質問すると必ず答えをくれる。委員会の間に宿題だって手伝ってくれる。
こう覚えたら忘れにくい、これにはこんな逸話がある、そんな風に細やかに気の利く彼は、実は教師に向いているのかもと思った事もあった。

そして、そうした豆知識や雑談には必ず、兵助くんの優しい笑顔が付いてきた。
演習で失敗して傷だらけになった時も、落第点を取った時も、火薬の坪をひっくり返した時も。
最後には必ず笑ってくれた。


俺が彼に教えられたのは勉強だけじゃなかった。この気持ち、暖かくて優しくてだけど穏やかではない気持ち。
これが恋だと気付くのに時間はかからなかった。

だけど、今の俺が兵助くんに教えてあげられる事は一つもない。それが悔しかった。

そんな事を考え込んでいたせいか、いつもより口数が少ない俺の様子を不思議に思ったらしい兵助くんに声を掛けられた。
ああ、いけない、委員会活動中だった。

兵助くんは何も聞かない。今みたいに明らかに悩んでますって態度でいても追求したりしないで、言いたかったらいつでも聞いてやるからな、彼の表情は暗にそう言っているのだ。
俺にはどんなにか有り難かったことだろうか。何も考えてなさそうと言われてきた俺だって、呑気に見えて実は必要以上の馴れ合いは苦手の部類であったのだ。
まぁそれでなくても今考えていた事は兵助くんの事なのだから、聞かれなくて本当に良かった。誤魔化し切れる自信は余り無い。幾ら天然な兵助くん相手だろうと。

「斉藤が元気無いと調子狂うんだよ」
「へ…そうなの?」
「だって俺いつも斉藤に元気貰ってるからさ」

そう言ってはにかんだ兵助くんに、また心が暖かくなった。
俺も兵助くんに、何か与える事が出来てたのかな。
俺が笑ってて、それで兵助くんが元気になるなら、いくらだって笑顔でいてあげるよ。



右も左も分からないこの世界で
今はまだ、君に何も教えてあげられなくても良いか、と思った。


必死になって、きっと追い付くから、覚悟しといてね。







end.

09,3,8




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