結び目(竹久々)
授業も委員会活動もない穏やかな日の午後。
五年長屋の縁側に足を投げ出して座る俺と兵助。その兵助の手には、彼の大好物である白い物体。
力を入れれば直ぐに崩れてしまう繊細なそれを器用に掬っては口に運ぶ。俺はその様子を眺めながら温くなった茶を啜った。
「なぁ、兵助は何で豆腐が好きなんだ?」
今更何を、と自分でも思う。兵助が豆腐を好きな事は学園の人間全員が知っている。彼が豆腐を食べる姿を側で見続けて早五年目。今更理由など知ったことか。
こんな事がふと気になってしまうなんて、俺は今日という日のこの時間を余程平和に感じているらしい。
口に含んだ豆腐を咀嚼し飲み込むと兵助は首を傾げた。
「さぁ…理由はないよ」
好きなものは好きなんだから。
そりゃあそうだ。食べ物は美味しいから好きになる。それだけが理由だ。
だったら、俺は?
美味しい訳じゃない(そもそも食べられない)俺を兵助は好きだという、その理由は?
「なぁ兵助」
何で兵助は俺が好きなんだ?
言いかけて、言葉を飲み込んだ。
兵助が俺を選んでくれたその事実だけで充分だから、理由なんて必要ない。
それにもし逆に『何ではちは俺が好きなんだ』と問われて、明確な答えが出せそうになかったから。
(だって全部好きだから、そんなもん言葉に出来ない)
「本当は…あるんだ」
「ん?」
「豆腐が好きな理由」
「美味いから以外に?」
「うん。でも、秘密」
「何だよ、気になんじゃん」
(入学したての頃、初めて言葉を交わした日、晩飯一緒に食ったよな)
(あの時、はちがくれたんだよ、豆腐。仲良くなったしるしに、って)
初めての、贈り物。
おけま↓
「なぁ久々知って肌すげー白いよな」
「うん、母さんに似たみたい…変かな…」
「んなわけねーじゃん!きれいで羨ましい!あっほら、この豆腐みたいじゃん」
「ほんと?おれ豆腐好き」
「じゃあ俺の豆腐やるよ!友達になった記念に」
「っ!!……ありがとう…」
END
09,5,7
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