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狂愛(タカくく)
※バイオレンス斉藤。細かい描写は無いですが苦手な方はお避け下さい






忍装束の下の、秘密。




授業の合間にも、夕餉の後にも、夜床で愛し合うときも。斉藤の暴力は止まらない。
装束の下には赤や紫の痣が、はたまた縄の食い込んだ痕が、息を潜めている。それらがたまに布地と擦れて痛みを生んだ。だがまぁ演習などで負う怪我に比べたら本当に些細なものだった。

出会って、惹かれて、割と早い内からだったと思う。斉藤は愛情の一つとして俺を殴る、蹴る、縛る。そういう性癖の人間がいることは知っていたし偏見も持っていなかった。実際斉藤がそうだと知った時も俺はさして気に留めなかった。ああそうなのか、と、それだけ。
まあ痛みを伴うのは勘弁して欲しいが、さっきも言った通り俺には我慢する程のものでもないので、この関係を甘んじている。

「きれいだよ…へーすけくん」

斉藤はいつもそうやって笑って傷を付ける。痕をなぞる指先は暴力的な行為がまるで嘘のように優しいから、そんな所に愛情とやらを感じてしまう。俺も末期なのだ。

だから、装束の下はいつも他人には見せられない状態だった。入浴も一番最後にしている。
かわそうと思えば出来る。でも俺はそれをしない。斉藤はそれを分かっていて、拒絶しない俺を満足げに見やる。

「ね、へーすけくん」

呼ばれて、でも返事はしない。正直口を開くのも怠かったし、こいつもそれを必要としていない。ただ、指先を器用に滑らすだけ。
傷をなぞったり舐めるのは斉藤の癖だ。悪癖の多い奴め。


「俺、へーすけくんが好きで好きで好き過ぎて、おかしくなっちゃった」


「ごめんね」


「ごめんね、へーすけくん…大好き」


斉藤は時たま後悔する事があるようだった。ならするな、と初めの内は思ったが、今ではこの二面性が愛しい。本当に、末期だ。

「好きだよ」

「うん…」

「ごめんね、大好き」

ごめんね、ごめんねと、目には悲哀を浮かばせながらそれでも口の端を不適に吊り上げて何度も繰り返す。


実際の所、俺は嬉しいんだと思う。
痣は証、だから。


俺はマゾヒストでは無い。
なのに痛いのが嬉しいのは、斉藤を、愛しているからだ。
斉藤の愛情表現に、自ら飲み込まれた。


俺は周りが思うほど大人でも無くて、常識的でも無い。無知で、欲求を我慢するなど到底出来ない類の人種だ。
だけど純粋に人を愛せるほど子供でもなくて。貪欲に愛情を求める浅ましい只の人間だ。


俺達は、狂っている。
愛したくて。愛されたくて。






END


09,4,8



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