ぼくらは立ち止まらない(五年)
※現代
※雷蔵視点
※管理人は学部学科名を良く分かっていません
※若干、鉢くく?
雪の時期も梅の時期も過ぎ去った。先輩と呼ぶべき人達もそれぞれの進路へ旅立ち、僕らは高校三年生になった。
世間的には受験生という肩書きを背負う年である。小学校からずっと一緒だった四人が、初めてバラバラになるかもしれない年。僕らにとって初めての岐路だった。
「とりあえずみんな進学だろ?」
「まーね」
「大学かー、考えるの面倒くさいな」
「三郎はどこだって行けるからいいじゃん」
「俺の優秀な頭脳を何に活かすべきか迷いどころだからな」
「はいはい」
「はちは農大とか?生き物好きだもんね」
「まぁな。獣医学も興味あんだけど、正直入れるか分かんねーし」
「はちなら行けんだろ。理数系強いし」
「そーかな?ちゃんと学校探してみっか」
不真面目さが抜けない、けれど何をしても優秀な三郎は、本当に将来大物になる気がする。
はちは成績が悪い訳では無かったが、大人しく机に向かって勉強するという所作が一等苦手だ。現場命の獣医とか、すごい向いてる気がする。
「兵助も学校選び放題だよな。羨ましいぜ」
「俺もう決めてる」
「何!?初めて聞いた!何で俺に言わねーんだよ、まず俺に報告するだろ普通」
「何でまず三郎に言うんだよ」
「俺達の間に秘密は無しだぜ」
「兵助は大学行って何するの?」
「おい雷蔵スルーすんなよ…」
「泣くなよ三郎。俺、生物工学」
「バイオテクノロジーってやつ?」
「まぁそんなやつ」
「兵助ってそーゆーのに興味あったんだ」
「興味ってか、夢があるからな」
「夢って?」
「最高の豆腐を作ること」
「「「…は?」」」
「豆腐ってさ勿論遺伝子組み換えとかしてない自然のままの大豆から作るのが一番美味いって事は分かり切ってるじゃん。でもそれだけじゃ詰まんないから、どうせなら遺伝子組み換えしても美味い俺好みの豆腐作って極めてやろうと思って」
「俺…お前嘗めてたわ…」
「俺も…そこまで豆腐小僧だったとは」
「うるせー、別にいいだろ。夢だったんだから」
抜けてる抜けてると言われてるけど、やはり真面目な兵助だ。将来の事をそんなに早くから考えていたんだ(ちょっと動機がズレてる気もするが)。
好きなものにとことん集中する兵助のことだ、脇目も触れず熱心に研究に明け暮れる姿が容易く想像できた。
「みんな凄いな…先の事ちゃんと考えてる」
「雷蔵だって決めてるじゃん。語学系行くんだろ?」
「うん、そうなんだけど…」
モヤモヤする。
多分僕は、淀み無く進むべき道を見出しているみんなが不満なんだ。みんなは、学校が別々になって、寂しいとは思わないのかな。僕だってそんな事で志望校を決めるようなことはしないけれど、僕は、みんながバラバラになることが、思った以上に寂しいのかもしれない。
「こうやって一緒に通学するの、あと一年しか無いんだな、と思ってさ」
いつまでも、これが当たり前と思ってはいけない。この先壁にぶつかったとして、直ぐ側に彼らは居ないかもしれないのだ。
「寂しいなぁー…」
このまま、時が止まったら、って。思ってしまう自分が女々しくて馬鹿らしい。
「俺はむしろ楽しみだ」
「え?」
「大学生なんてな、遊び倒してなんぼなんだよ。やりたい事は山ほどある」
「へぇ、例えば?」
「みんなで酒飲んだり」
「おっいいねー」
「目的も無いドライブとか」
「あ、俺海とか行きたい」
「何だ兵助、じゃあ今から海に」
「つかみんなで免許合宿行こーぜ」
「遮るなよ馬鹿左ェ門…」
「…」
人の気も知らずに呑気な…と思って聞いていたが、明朗に笑う三人を見て、何だ僕は本当に馬鹿だなと思った。彼らは、学校が離れ離れになるから一緒に居られなくなって寂しいとか、そんな次元で考えてはいないんだ。
「そっかぁ」
いつも隣に居なくたって、助けが欲しい時にすぐ来てくれる。友達だから。毎日一緒に居られないからって、この幸せが終わる訳ではないんだ。
一人納得して満足顔の僕に不思議がる三人に、心から笑ってみせた。
「楽しみだね」
進むべき道とか、環境とか立場とか、取り巻くものが変わっても、大切な友達である事はいつまでも変わらない。
end.
忍術学園の"守られてる感"は現代以上。隔離されてる分特に。
それに終わりがくるなんて何か物悲しいなあ、と。
09,3,14
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