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流されてゆく午後
どこかノスタルジーを感じる平屋。
畳敷きで十畳程の部屋には、シンプルで大きなテーブルがどんと一脚置かれていた。

普段ならばこのテーブルを囲んで騒がしく食事や団欒が展開されるのだが、今はそういった日常とはかけ離れた空気が部屋に満ち満ちていた。


蝉が鳴き風鈴が揺れる、とても暑い日のことだった。

蝉が鳴き風鈴が揺れる、その音が静寂の中で痛い。


テーブルの中心に置かれたガラスの大皿の中でそうめんを冷やしていた氷がからん、と鳴った。

柳、仁王、桑原、切原。
誰も、何も言わない。

やがて長方形の短い辺にそって座った真田が重々しく口を開く。厳格なこの男はテーブルにつく時にはいつも正座をする。その膝に添えられた両の拳はじっとりと汗ばみ、微かに震えていた。

「その…だな。観月は、…もう帰ってこないのだそうだ。地元で診療所を開業するときいた」

誰も、何も言えない。

軒先で鳴いていた蝉が静かになった。
飛び去ったのか、或いは死んだのかはわからない。








あきゅろす。
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