菊をあげよう
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部屋の電球がきれた。
疲れて部活から帰って来てうっさい弟を華麗にシカトしてやっと部屋に辿り着いた俺のために、電気はついてくれんかった。
「あー……くそ」
夜8時40分。
閉店間近の某大手ホームセンター(片道5分)にチャリで向かった。
ら。
制服のまんま、テニスバッグ背負った幸村がおった。
「あ、仁王だ」
幸村は球根売り場を見とって、フロアに置かれた買い物カゴの中にはいくつかタマネギみたいなモンが入っとった。(それが球根だってことはわかっとうよ、当然)
おいでおいで、と呼ばれるまま近寄ると幸村が口を開く。
「1コ100円の球根、10コで800円になるのに9種類しかないんだ。あと1コ選んでよ」
内心笑った。
こんな時間に家にも帰らんで球根、じゃと。(王者立海の部長ともあろうこいつが)(否、幸村はこういう奴じゃ)
売り場を見れば、春は綺麗かろうタマネギが箱ん中で選ばれるのを待ちよった。
「9コじゃ駄目なん?」
「800円しか持ってない。ジャスト。」
それで全財産をタマネギに注ぎ込むこいつの気も知れたもんじゃなか。
どれくらいここでこうして迷っとったのか。
選ばれる1と諦められる8の間で、どれだけ悩んどったのか。
それで結局1も8も決められなかった幸村が、俺に審判を迫っとう。
しばらくタマネギを見回して、決めた。
「100円くらい俺が貸しちゃるけ、1コだけ選ぶとかむごいことさせなさんな」
「…うん。ありがとう」
それで俺は電球が買えなくなった。100円足りんかった。
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