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温かいレモネード 3









怖い、と初めて思った












その日は酷い雨で、私は別荘の窓から庭の様子を見ていた
矢の様に落ちては、地面に当たって火花の様に弾けて消える雨は、何だか哀愁が漂っている
そのうち、その景色を見るのに飽きてしまった私は、特にやる事も無いので寝る事にした










真夜中、豪雨は雷を伴ってきた
あまりに激しい音がしたので、思わず目が覚めてしまった
けたたましい雷の音と光、そして……人影





「誰っ…?!」

「………トキ、私だ」

「クロ…ツグ…さん…?」


人影の正体はクロツグさんだった
突然現れたクロツグさんは、びしょ濡れで私の別荘の玄関に立っていた


「ど、どうしたの?!取り敢えず、タオル!…あ、お風呂入る?!」

「トキ」

「…ほ、ほんとに…どうし、」


突如、目の前が暗闇に包まれた
顔や体に染み込んできた冷たさに、自分はクロツグさんに抱き締められたのだと気付いた


「トキ」

「クロツグさん…?」


ふわり、と自分の体が浮かんだ
暗闇は融けて、薄っすらとクロツグさんの輪郭が見えてきた


「…?な、に?」

「…」


そのままクロツグさんは、私を抱いたまま室内を移動した




















「(血の味がする、)」


クロツグさんにベットに投げ出されて、そのまま噛み付くようなキスをされた
クロツグさんの歯が私の唇を切ってしまい、とても痛い
でも、それ以上に怖いかった


「クロツグさ、ん!痛いよ!」

「…」

「い、やぁ…!」


無理矢理足を割られ、下半身を弄られる
いつものような優しい愛撫では無い


「痛いよ、クロツグさん!どうしてこんな事するの?!」


雷はいつしか止んでいて、部屋には一筋の光りも無い
真っ暗な闇の世界がこの部屋に広がっている


「怖、い…電気点けて、あっ!」


ベットサイドにあるスタンドライトに手を伸ばすと、その手はクロツグさんに掴まれて、そのまま頭上へと固定された
その為、私は必然的にクロツグさんに胸を突き出す形となる
それを狙っていたかのように、乱暴に寝間着のボタンを全て引き千切られた


「…っひ!」


何時もの優しく紳士的なクロツグさんからは想像もつかないような乱暴な行動
そしてこの暗闇では、クロツグさんの顔は見えない
怒っているのか、悲しんでいるのか、全く分からない
………もしかしたら、私の体の上に跨っているこの人は、クロツグさんじゃないのかもしれない
そうなると、堪えていた恐怖は一気に爆発した


「さ、触らないで…ッッ!!!」


大声で悲鳴にも似た声を上げた
その途端、乱暴な愛撫はピタリと止まった


「……怖い、本当にクロツグさんなの?…怒ってる、の…?わ、私、何かした?」


震えた声で、懇願するかのように理由を問う
私の目からは、大粒の涙が流れるのを感じる
その時、額に当てられた柔らかな感触
…この感触には、覚えがあった
クロツグさんがいつもしてくれる、額へのキス


「(ああ、良かった…いつもの優しいクロツグさんだ)」


これで、恐怖に怯える事も涙を流す必要も無くなった


「……クロツグさん、何かあったでしょ?…話して」

「…済まなかった、トキ」

「クロツグさん…」


私の手をきつく締め上げていた手は退かされ、周りに明るみが広がった
スタンドライトに光に目を窄めながらも、顔を上げると、とても悲しそうな顔をしたクロツグさんが居た


「…っ」


こんなクロツグさんは、未だかつて見たことはなかった
その悲壮的な表情を浮かべるクロツグさんを、私は思わず抱き締めた


「何があったの?…私に話して?」


体を離して、今度はクロツグさんの顔に両手を添える
そのまま、クロツグさんがさっき私にしてくれたように額にキスをした


「………私は…トキが好きだ」

「…えっ」

「でも、私は中途半端で…トキを幸せにしてやれない」

「そんな事…」

「辛いんだ、トキを本当に幸せにしてやれない事が」

「…私、し、幸せだよ…?」


怖い、さっきとは違った意味で
クロツグさんの真剣な瞳から目を逸らせなくなる









「もう終わりにしよう」

















「…ぅ、ン!あッ!」


私の体を愛撫するこの手も


「…挿れるぞ」


私の中に入るこの一部も


「あああぁっ…!」


柔らかで甘いこの唇も


「…愛してるッ」


全部終わり
今日で終わり


「はぁっ…クロツグさん…」

「トキ…」


体の内に広がる、この熱い愛欲も


「さよなら、クロツグさん」

「…」


貴方を悲しませたくないから

貴方が大好きだから、本当に愛しているから


「…ああ、さようなら…トキ」




我が儘は言わないよ

















きっとキスの味は






まどろむ幻想のような夢の中で、クロツグさんは帰って行った


疼く体から、まだ熱いものが逆流を始めた

































2009*04*15
今回は、エロかなり少なめで



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あきゅろす。
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