温かいレモネード 4
クロツグさんと別れて2ケ月が経ったある日、私は確信した
こうなってはどうしようもないし、クロツグさんにとっては私以上に大変なことだと思う
だから私は黙っている、そうする他は無い、不倫してまでクロツグさんと関係を持った私には、選択肢など元より無いのだ
「妊娠したの」
そうクロツグさんに言えたらどんなに楽だろう?
しかし、それは私達が不倫という関係じゃなかった場合の話
「もうすぐ冬かぁ……」
窓の外に見える街行く人々の服装を瞳に映らせながら私は独り言を言った
部屋に散らかるダンボールには、季節を問わない服が無造作に詰め込まれている
私は今月中にシンオウから姿を消す
「おめでとうございます、妊娠していますよ」
産婦人科の医師が顔をほころばせて言った
妊娠していると自分自身確信を持っていたし、驚くことではなかったが
「ひっ……うっ、く」
他人に言われ、現実だと確定されるとではやはり感じ方が違った
シンオウを出る前にちゃんとした検査をして、確定した妊娠
妊娠することを望んでいなかったわけではない、母親になりたいと思ったことは何度もあった
しかし、本当に愛した相手とは無理だと分かっていた
こんな形で叶うとは夢にも思わなかった
クロツグさんに別れを告げられた時に、放心状態になって、今まで怠らずに行なっていた処理が遅れたために妊娠したのだ
「(……産みたいよ、クロツグさん……)」
「クロツグさん、元気無いですねぇ〜……何かあったんですか?」
「……ネジキ……すまない、私はそんなに疲れている顔をしていたかな」
「もう2ケ月以上はそんな感じですねぇ、最近になってますます顔色が悪くなってく感じがしますけど」
「2ケ月……そうか、そんなに経つのか」
「……?何がです?」
トキとの関係に終止符を打ってから2ケ月以上も経つ
もう過ぎたることと割り切っているつもりでいても、私の全てがトキを忘れられないと悲鳴を上げている
トキは今どうしているだろう、元気にやっているといいが
あんな自分勝手に別れを切り出した私のことなど、完全に忘れ去ってくれていたらどんなに楽だろう
過去にこんな酷い男と不倫していたことがある、そうやって友達と笑い話にしていてくれたらいい
「(お願いだから、私のことなど忘れてくれ)」
例え私がトキを忘れなくても
「そういえば、クロツグさんってトキさんと知り合いでしたよね」
「……えっ?!あ、あぁ」
「何をそんな驚いた顔をしているんです?……何かやましいことでも〜?ジーーー」
「そんなことっ……無い……」
「そうでなくては困ります」
「……っ」
「……彼女のことが最近噂になってるんですよ」
「……どんな?」
「ダリアさんが見たそうなんですけど、彼女が産婦人科から泣いて出てくる姿を」
「え、」
「こりゃ妊娠でもしたんじゃないかって、シンオウ中で噂になってて……ほら、彼女って結構人気あったじゃないですか〜、もしそれが本当ならって嘆く男が多くて……って、クロツグさん?……もう、本当にせっかちだなぁ」
足が縺れる、胸が張り裂けそうだ
「年甲斐も無く走るからよ〜」脳裏でそうトキが笑う様子が容易に想像出来た
「(……子供が出来た?私との?……分からない、私と別れてから他の男と……)」
様々な憶測が浮かんでは消える、しかしそんなことはどうでもいい
問題なのは、今トキが苦しんでいるということ
泣いていた、ネジキの言葉を反芻する
トキは私に会いたくないだろう、出来ることなら二度と
でも、放っておくことは出来なかった
迷惑でも力になってやりたい、少なくともトキを壊したのは私だから
「(今も昔も変わらない、トキを守るということは、これからも変わらない私の使命だと思っている)」
腰のバックルに下げているボールを空高く投げた
「カイリュー!!私をトキの元へ連れて行ってくれ!」
甘酸っぱいレモン味
(これが彼女への想いの味)
2009*11*24
書いていて辛いです、もう少しお付き合い下さい
それと、中絶の問題について最近よく考えます
中絶は賛成か反対かの問題ではなく、中絶を考える段階になる前に解決することです
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