T&B シンプルイズベスト(R-18) 深夜、ふと目が覚めると寝汗をかいていた。暑い、と寝返りを打てば隣で眠るバーナビーが目に入る。一見何の問題もなく眠っているように見えたが、よく見るとうっすらと汗をかいていた。 虎徹はベッドを出ると、軽く汗を拭い新しいタオルを持ってベッドへ戻った。起こさないようにそっとバーナビーの額にタオルを当てると、小さな声を上げてもぞもぞと体が動く。 「ん……おじさん?」 「悪い、起こしたな」 タオルを片手に謝ると、バーナビーはぼんやりしたまま首を傾げ、やがてぽつりと呟いた。暑い、と。そんなバーナビーに虎徹はタオルを渡してやった。バーナビーは礼を言い汗を拭っていたがやがて諦めたようにタオルを置いた。 「気持ち悪いのでシャワー浴びてきます」 「今から?朝でいいんじゃねぇの?」 「でも、気持ち悪いです。べたべたするし、それに目も覚めちゃいましたし」 そう言ってベッドを出ようとするバーナビーの腕を虎徹は引き止めるように掴んだ。それは衝動的な行動だった。 「何ですか?」 「いや……」 その時虎徹の頭に浮かんだのは何ともベタな誘い文句だった。そのまま口にしたら何を言われるか、どんな目で見られるか、大体の想像はつく。 「おじさん?どうしたんですか?」 バーナビーは掴まれた腕を振り解くこともなく虎徹の顔を覗き込んでくる。思ったよりも近くにある瞳と目が合った瞬間、気付けばバーナビーの体は自分の真下にあった。要はベッドへ引きずり込み、押し倒していたのだ。 「………どういう、ことですか?」 「どう、って……こういうこと?」 へらりと笑って虎徹はバーナビーの首筋に舌を這わせた。うっすらと汗ばんではいるが不思議なことに汗の味はしなかった。首が弱いバーナビーはそれだけで息を詰めたようだった。 「…………まさか、どうせ汗をかいてるならついでに汗をかくことをしよう、とか思ってます?」 まさにそのまさかであった。 だが、一つ言わせてもらえるのなら虎徹は最初からそんなつもりではなかったのだ。ついでに言うなら汗をかいている時に更に汗をかく趣味もない。ではなぜバーナビーを押し倒しているのかと言えば、それは衝動としか言いようがなかった。性欲なんていうのはそういうものだろう。 しかし、見上げてくるバーナビーの視線が少しばかり冷たいものであることに気付いた時、虎徹は最初からそんなつもりじゃなかった、などという言い訳めいたことはとてもじゃないが言えなかった。 「ええと………ダメ?」 「そうですね……もう少しマシな理由を考えてください」 視線のわりにはバーナビーは優しかった。ということは、さほどは嫌がってはいないということなのかもしれない。けれど残念ながらバーナビーの言うマシな理由というのが思いつかなかった。そもそもセックスをするのに「したいから」以外の理由などあるのだろうか。結局はそのシンプルな理由に行き着いてしまうのだ。どんなに言葉を並べても最終的にはその一言に尽きることになる。 「………したいから」 「それだけですか?」 「ダメか?」 「いいえ。いいですよ」 そう言うとバーナビーは虎徹のシャツを引っ張った。今にも唇と唇が触れ合いそうなその距離の均衡を先に崩したのはバーナビーの方だった。意外だ、と虎徹は思った。ちゅっと触れるだけのキスをしてバーナビーはすぐに離れていった。下から見上げる瞳は何か言いたそうにも見えたし、続きをねだっているようにも見える。 「もしかして、バニーちゃんも結構したかった?」 「………あなたに付き合ってあげてるだけです」 可愛くないことを言うがバーナビーの頬はほんのりと赤く染まっていた。ああ、可愛いな、と思う。素直じゃなかったり、可愛げがなかったり、そういうところさえも可愛くてたまらなかった。思わず無言で悶えていると、「おじさん?」と呼ぶ声が聞こえてくる。 「………こういう時におじさん、はないと思うんだけど」 「あなただってバニーちゃんだなんて言うじゃないですか」 「それはいいの。バニーちゃん可愛いから」 「意味が分かりません」 素っ気なく言うバーナビーの唇を塞ぐとすぐに舌と舌が絡まり合った。ついさっきまで他愛ない会話をしていたがこうしてみると互いに相手を求めていることがよく分かった。どこか性急に絡まる舌と、時折立てる歯がそれを表している。 「……、っん、」 バーナビーは息苦しいのかとんとんと虎徹の背中を叩く。なので一旦離れはしたがまたすぐにくちづけた。それなりの回数をこなしているというのにバーナビーは未だにキスが上手くできないようだった。正確に言えばキスではなく息継ぎが上手にできないのだろうが。 「…っ、は、……くる、し……」 あまり長くは触れずに離れてやるとバーナビーははあはあと荒い息を吐いた。もう既に一戦終えてしまったかのような息の荒さだ。 「苦しそうだけど大丈夫?続き」 「へいき、です…!」 心外だと言うようにバーナビーは潤んだ瞳で虎徹を睨みつけた。負けず嫌いというか、強がりというか、なんとも彼らしいことだと笑みが零れる。虎徹はバーナビーの髪を撫でてやり、遠慮なく続きを再開することにした。 まだ苦しそうにしているのでキスはしばらくお休みすることにして首から下、肩や腕、胸や腹部をゆるゆると撫でると、バーナビーはくすぐったそうに体を捩る。どこを触っても気持ち良い、というのがベストなのだが現実はそうはいかなかった。いずれはそうなるといい、と虎徹は長期的な考えで臨むことにしている。シャツを脱がし、今の時点で分かっている気持ち良い場所、首や鎖骨、胸元を舌と掌、指先で弄ってやると眼下の体がふるりと震えた。 「…っ、あ、」 「気持ち良い?」 見れば分かることを敢えて聞いてみるとバーナビーは微かに頷いてみせた。珍しい。けれど良いことだ。 下肢に手を伸ばすと、完全にではないけれどそれなりの反応を示している。服の上から擦るように掌を動かすと、すぐにそこは硬くなっていった。手を入れて直に触ってみると濡れた感触があり、掌がぬるぬるとよく滑る。 「あ、……っ、ん」 くちくちと微かに聞こえる水音はバーナビーには聞こえていないのだろう。もし聞こえていたら羞恥のあまりきっとこんなことさせてくれないはずだ。バーナビーが気持ち良さそうに声を上げている限りそんな心配はいらないだろうと、虎徹は自分の下で上気した顔で喘ぐ姿を眺めた。 手探りでローションを探し、掌で少し温めてから後ろに触れると、どうしてもその感触に慣れないのかバーナビーはそれまで気持ち良さそうにしていた顔を僅かに歪めた。 「ごめんな。少し、我慢してくれ」 「わかって、ます…」 そう言うと、分かっているということを表すかのようにバーナビーは力を抜いてみせた。それに合わせて濡れた指を少しずつ入れていくと、やはり気持ち悪いのか徐々に体が強張っていった。本来そういうことに使う器官ではないのだから気持ち悪いのは当たり前だった。それを悪いとは思ったがそれでも体を繋げたいと思うのだ。 奥へ奥へと指を進めていくと、嫌そうに歪んでいた表情が変化し、思わずといったように高い声が上がった。 「っ、あ!……いや、だ…やめて……」 「やめない。だって気持ち良いんだろ?」 声が上がった場所を指先で擦ると、バーナビーは今にも泣き出しそうな声を上げた。そんな声で、やだ、やめて、いやだ、と言われるとどうにも合意を得ずに無理矢理犯しているような気分になる。だが、実際はもちろん合意の上であったし、嫌だ嫌だと言うのは感じすぎているからだと知っていた。指を増やしてももう顔が歪むことはなかった。そろそろいいかと思い、足を開かせると、ちょっとした悪戯心が頭を擡げた。 「なあ、前からと後ろから、どっちがいい?」 「……っ、あなたの、すきにしていいから、だから、はやく…!」 一瞬耳を疑うようなことを言われた虎徹は確かに体が硬直するのを感じた。そして、何かがプツンと音を立てて切れるのを感じた。それは、理性を繋いでいる糸だろう。更にとどめのようにバーナビーは口を開いた。 「こてつ、さん…」 うるうると涙を溜めた瞳で見上げられて紳士的に行為を進められるほど虎徹はまだ老成してはいなかった。何も言わずにバーナビーの中に入ると、本能のままにその体を揺さぶった。何か制止の声が聞こえたような気もするが、それも構っていられないほど夢中で穿った。途中、バーナビーは本気で泣いていたのだがその時の虎徹にはその泣き顔すら愛しいものに思えてならなかった。 その後、虎徹はバーナビーにこっぴどく叱られた。そのうえ、あなたなんか嫌いです、とまで言われた。叱られるのは仕方ないのだが、嫌われるのは困るので虎徹は許してもらえるまでバーナビーに奴隷のように尽くすのだった。 終 いろんな方面に心の中で土下座しながら書いた一品です。 あなたの好きにして!ってバニーちゃんに言わせたかったんですよ… [*前へ][次へ#] [戻る] |