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演習
バルハル前提
ヴィリ25歳、バルカさん18歳、ハル21歳

ボムが爆発の前兆に膨れ上がる。退避は間に合わない。その前に切り捨てる。
刃が金属を噛む。まずい、
「何してる!死ぬ気か!」
目の前にシールドが展開される。
「うるさい!戦えないなら下がってろ!」
振り向いて怒鳴る。
「―サンダラ・ギア」
稲妻が水平に走る。薄く紫を纏った灼熱が奔る。
焼かれるのか。一瞬の怯えはシールドと共に吹き飛び、背後から現れたドレッドノートと同時に粉砕された。
「戦えないなんて誰が言った」
巨体の陰に隠れていたボムの残りをブリザラ・ギアが仕留めていく。
「状況を冷静に把握するように。バルカ・ファロン二等兵」
周囲に動くものがなくなり、ようやく葡萄色の瞳が自分を捉えた。
「……イエス、サー」
「ふうん。ようやく任務モードか。それでいい、おれの指揮下で死なれちゃ困るんだよ」
「査定が下がるから?」
反発すればすぐさま3倍は返ってくると思っていた。
「……そうだね。それに、ハルが泣くだろ。ライトニングも」
「それは」
「腕切ってるね。ケアルかけたら移動する、ここじゃ飛空艇に見つけてもらえない」

「これくらい、ギアを使わなくてもいいだろう」
擦過傷ばかり、放置しても3日で完治するはずだ。青い燐光がみるみるうちに傷をふさいでいく。
「市街戦なら放っておいた」
それは自分たち連隊が突破されるということなのか。
「入れさせない」
「結構。ここ―ヴァイルピークスだからね。下界の雑菌もらって破傷風やりたくなかったら黙ってな」

「なあ」
沈黙に耐えられなかったのは自分の方だった。
本部にGPSを飛ばして、ひたすら歩くだけの時間。合流地点に指定された場所まではしばらくかかる。
「何。ああ、エッジ折れただろう。これ使えば」
鞘ごと投げられたのは大型のサバイバルナイフだ。刀身は一度も使っていないかのように磨きこまれている。よく見れば目の前のPSICOMの男は軍刀以外にもあちらこちらにナイフや暗器を持っていることがわかる。
「さっきの……市街戦って。警備軍突破してモンスターが市街地まで来たことがあるのか」
「最近はないね」
「前はあった?」
「パルスから色々引き揚げてた頃は多かったって話だけど」
「歴史のレベルなのか」
「警備軍が市街戦してたら名前が泣くだろうね、守るべきものを危険にさらしてるんだから。PSICOM管轄事項だ、これ以上は聞いても無駄だよ」
「PSICOMはすぐそれだな」
「警備軍のためでもある」
「情報統制され続けて通常任務に支障きたしてるってのに。さっさと情報くれたら蹴散らして終わらせる」
それくらいの実力はあるはずだ。自分にも、連隊にも。
ふう、と息を吐く音がする。
「突っ込んでくだけならモンスターにだってできる。名前のR抜いて改名したら?」
「は?」
「バカ」
「ふざけんな!」
Barca―妹と対になった名だ。雷光。
「それは冗談にしても、君は防御と回復をどうにかするべきだね」
「やられる前に倒せば問題ない」
「倒せないかもしれないとは思わない?怖くないの」
「別に。あんただって、そんなこと考えながら戦ってないだろう」
「考えてるよ。ずっと」
あっさり否定されることに驚く。
「ずっと、怖い。とどめをさせずに後ろから斬られないよう、ナイフを研がずにいられない」
どれもこれも触れただけで指に赤い玉ができるほど研がれたナイフ。さきほどのボムの爆発に自分の剣は刃こぼれし、渡された。実際に使うことなどないからだと思っていた。
「属性を見誤って反撃されないよう、ライブラをかけずにいられない」
似ているなら属性も同じだと思いこみ、敵の強化をしたことが自分は何度あっただろう。
「ギアの作動不良が起きた時に、例えば崖の上だったら。分解・整備は使うたびにせずにいられない」
「速攻をかけられないよう奇襲できないか考え続ける。手を打てるだけ打って、それでも確実なんていえない」
「―そんなことばかり考えて、なんでここにいるんだ」
ここに―軍に。年の差だけでなく、自分と違って人当たりが良く、情報分析の速さと知識と、ギアも含めて能力の高さ。近接戦闘は自分の方が勝るだが、使えなくとも日常生活ならどうということはない。
「もうどこにも行けない」
「は?」
「PSICOM管轄事項に関わるってのはそういうことだよ」
「どういうことだ」
「前はどこにも行けない、でも死にたくないからここにいた。今は違う」
問に返されるのは答えではない。
「あの人がいる。それにハルがいるから、生きて帰る」
「あんたは―それで」
「わかったような口きいたらぶん殴るから」
「ああ?」
いきなり口調が変わる。視線がぶつかる。
「君むかつくんだよね。おれは物理攻撃強くないけどそこまで頼ってるの見るとペインのひとつもかけたくなるっていうか」
「返り討ちにギア全部叩き落としてやろうか」
「PSICOM(公安情報司令部)相手にできるもんならやってみな、上官暴行罪でしょっぴくぞ。
―ハルのことにしてもさあ、なんでおれがいない間に口説いてんの。2年前に会ってからずっとおれのハルなのに」
「あんたのじゃない、俺のだ。―2年?」
「ああ聞いてない?なら言わない。とにかくさあ、ハルが嫌がるだろうから君のこと闇討ちにはしないけど、ほんとむかつく。あの子はおれのだよ」
「こっちのセリフだ」
「はいはい。真面目な話、二等兵だから鉄砲玉で許されるとしてもさっきの何?ATKとBLAしか使えてないじゃないか。せめて3つ、DEFくらいないとHLRの負担大きすぎるだろ」
こちらの話を聞く気はないらしい。
「治療の必要ない程度に済めば問題ないだろう」
「済んでないから言ってる。ドレッドノート確認できてなかったくせに」
「あれは・・・・・・!」
言い返そうとして止まる。迫る、あれはなんだ。
「なに?」
眉をひそめる男の背後に立つ、鋼鉄の生命。
「お前もな!」
振り下ろされる鉄骨を、男の腕を掴みかろうじて避ける。
引き倒された男が地面に座ったまま呟く。
「バカな、探知ギアに反応なかったのに」
「たまにいるんだよ、うちの管轄でほとんど目視でしか察知できないやつがな!」
ナイフを構える。
「片付ける」
「プロテス・ギア」
ギアがかかる。
「おれはENH系が苦手だから早めに頼むよ。援護はする」
「いらねえ、よ!ろくにギアきかねえからな!」
バファイをかけられながら、ドレッドノートに跳んだ。

蒸気洗浄。ENHギアよりよほど得意なのだろう、矢継ぎ早に放たれるJAMギアに堪えかねてドレッドノートが動きを止める。その隙に連撃を加え―break。巨体を打ち上げる。空中でさらに機関部に打撃を入れる。
がちりとサバイバルナイフが手の中で音を立てる。大型とはいえ所詮ナイフだ。普段使う軍刀よりも格段に華奢だ。折れる、か。
「エンサンダ・ギア」
ばちりと火花が散った。
「もたせろ。機関部を狙え」
「Yes,Sir」
詠唱が始まる。1体目に撃ったときよりもよりはるかに長い。おそらくJAM系にエネルギーをつぎ込んだために残りのギアからかき集めているのだろう。それまでの時間稼ぎだ。
もう、一息。
「―――ブリザガ・ギア!」


「冷て」
「感電と丸焼きよりましだろ」
「濡れたまま歩く俺の身にもなってみろよ。……何してんだ」
着地して振り返った先にはべたりと座り込む銀髪の男。
「……立てない」
「はあ?」
ふいと顔を逸らされる。
「腰抜けたのか」
「な、そんなわけないだろ!ギア使いすぎでもう立てないんだよ悪かったなインドア派で体力なくて!」
まくしたてられるが若干息が上がっている。
「回復しろよ準備周到なPSICOMの上官殿」
「だからギアはもう無理だってば!」
「ポーションとか」
「……持ってない!」
なんだそれは。
「ほら」
「え」
ポーチから瓶を出す。
「飲めよ。ついでに担いで連れて行ってやろうか。横抱き希望か」
「女の子扱いとか冗談」
「いいからさっさと飲めよバカ上官」
「うっわ、ちょっと」
飲み終える前に肩に手を入れる。
「とっとと歩かないと本気で横抱きにするからな」
「君ほんとR抜いて改名しろよ!」
「誰がするか!」
怒鳴りながら歩く俺たちのもとに、飛空艇のエンジン音が響いてきた。

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