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グラデーション
「そうだ、」
士官学校は考査が終了して短期間の休みに入る。普段ならその足で自宅に戻るのだが、先日従兄の家の鍵をもらった。
夕刻、お茶をするには遅く、夕食には少し早い。兄は任務だとかで不在だ。従兄を訪ねて外食するか、一緒に作るというのは良い考えに思えた。
「ヴィリ君もお休みって言ってましたし」
コミュニケーターで予定を確認する。普段ならここで連絡を入れるのだが、そのまま閉じる。
「たまに驚かすのもいいですよね」
いつも従兄に驚かされているのだし。

いつでも来て良いよ、との言に甘えて扉を開ける。目当ての人物はソファで丸くなっていた。声をかけても返事がなかった理由はこれか。
休みだと言っていたのに軍服のままで、少し髪も乱れている。帰宅してそのまま寝てしまったのだろうか。
部屋を見回して、椅子に膝掛けが置いてあるのを見つける。ないよりいいだろう。そうしてその間に何か作って、匂いに従兄が起き出してびっくりする。とても楽しそうだ。
毛織物を手に取り近づく。広げて、肩に、かけた。

世界が回転する。
差し込む光を受け輝く銀朱とさらに赤く血のように見える二つの光はガラス玉のようで、左目でそれらを捉えつつ右の視界の黒点が広がるのが不思議だった。

「ハ、ル」
呼ばれているのは自分の名だと認識したのは何秒経ってからだったのだろう。はい、と返事をしようとして声が出せないことに気づく。
瞬きをすると、弾かれたように従兄が体の上から退いた。
「ごめん」
体を起こす。床に座り直すと視界が広がり、喉が軽くなって、押さえつけられていたのだと理解した。
従兄は俯いて、表情は窺い知れない。
「ごめん、ちょっと、気が立ってて……ごめん」
手を伸ばす。頬に触れると熱いものでも触ったかのように体が跳ねる。
「触られたくないですか?」
ゆるゆると首が振られる。
「そうじゃ、なくて…俺が、ハルに触ったら」
最後まで聞く気はなかった。
膝立ちになって従兄の頭を胸元に引き寄せる。
「ハル」
「ご飯、食べましたか?」
「え」
きょとんとした声は年上には思えない。
「食べてないなら、一緒に作りましょう。もうごはんの時間です。一緒に作って、一緒に食べて、お話しましょう。考査明けにはサプライズパーティーがあるらしいんです。何をしたらいいか相談にのってください。ヴィリ君得意でしょう」
「……うん」
「立てますか?」
「離してくれないと、立てないよね」
「あ、そうですね」
手をほどこうとすると腕が背中に回される。
「でも、もう少しこのままでいて」
「……はい」


夕焼けが消えるまでの時間。

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