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宵闇に浮かぶ
「この後魔王城に行こうと思うんだけど」
食事中に言われた。
「魔王城、ですか」
「あ、怖い?でもちっちゃい子も入ってるしさ、寝られないほど怖いってことないと思うよ」
からかわれる。
「怖くなんか!行きましょう」
「眠れなくなったら俺が添い寝するから」
「もう!」

薄暗い廊下を二人で歩く。内部は様々なルートに分かれているらしく、適当に選んだコースではまずいかにも魔王らしい魔王が現れた。
『侵入者め!財宝を奪いに来たな』
見ればいつの間にか足元には金銀が輝いている。
『そうはさせるか!迷宮で永遠にさまようがいい』
突然真っ暗になり、何も見えなくなる。
「……凝った作りだよね」
しみじみと頷く従兄になんとなくがっかりする。
「もう…」
「あ、ごめんごめん。怖がらなきゃね」
「そういうのじゃないんですけど」
「いや、つい装置とか気になって。でも迷路抜ければ賞品がもらえるコースみたいだよ。早く脱出したらいいのが当たるかも」
「そんなこと言ってましたっけ?」
「俺たち魔王様の財宝奪いに来たらしいから」
「ああ、なるほど」
「じゃあ行こう!」
意気揚々と歩き出す従兄に言いたくなかったが言わざるを得ない。
「ヴィリ君、そこ非常口です」
いくらなんでも早すぎだ。

「なんだか普通の迷路ですよね?」
「暗いけどね」
うろうろと歩き回り、行き止まりにあっては引き返し、また進む。
「このままだとすぐに出口に行けそうな気がします」
「うーん、迷路自体はいいけど、そろそろ何かあるんじゃないかな?」
「何かって」
強がってはみたけれど、あまり怖いのは嫌だ。
振り返り、従兄が何を予想しているのか尋ねようとした。
ちかりと何かが光る。
「え?」
「どうかした?」
従兄も自分の視線を辿る。
その間にも光は強くなり―いや、近づいている。不気味な音が響き始めた。
「すごいな、きっとこれは魔王だよハル」
「さっきと様子が違いますけど」
「正体見せてくれるんだよ、多分。倒せば財宝だ」
「倒せなかったら?」
機械なんだから、と思い込もうとしても恐怖はますます煽られる。
「……釜茹で?」
「そんな!」
「火炙りの方がいい?」
「どっちでも変わらないじゃないですか!」
「あ、来た」
「きゃああああ!」

「……何笑ってるんですか」
「役得だなあって」
「……?」
「だって普段俺がべたべたしてもスルーなのに今日はハルから抱きついてくれるし」
ぱ、と捕まえていた従兄の右腕を離す。
「もう行きません」
「そんなに怖かった?」
「だってあんなに大きな……!」
思い出すだけで怖い。賞品で貰ったカーバンクルのぬいぐるみを抱きしめる。
「大きい?」
「ヴィリ君は見なかったんですか?」
「うん、俺が見たのは人がいっぱいこっち見てるだけだった。拍子抜けしたけど、確か人によって見えるものが違うらしい」
首を傾げる。
「俺にとって一番怖いものらしいけどよくわかんないな」
「私もヴィリ君が見たのが良かったです」
「俺もハルが見たのちょっと見たかった。……あ」
「どうしたんですか?」
「今度は同じものが見られるよ。行こう」
手を引かれる。
「ちょっと」
「パレード。人が多いから」
迷子になるほど子供じゃありません。
そう言おうと思ったけれど、手を振り払いはしなかった。

セイレーンが踊る。
黙示戦争を模したパレードなのだという。
『我はコクーンを砕くルシなり』
空が赤く染まる。火花がほとばしり、観客に降り注ぐ。
映像なのだとわかっているのに悲鳴を上げる。
『ファルシよ』
高らかに響く声と共に現れるコクーンのルシ。
蒼い壁が火の粉をはじく。
赤と青、ぶつかり合い紫電が走る。
「きれい」
従兄はどう思うか聞いてみようとしたときだった。
ふらりと隣の影が揺れ、後ろから抱きしめられたのだと気づく。
「ヴィリ君?」
左肩に重みがかかる。
「ちょっとの間、このままでいさせて」
自分より幾分白い銀髪が頬に触れる。
何か、気分でも悪いのだろうかと尋ねかけて気づいてしまった。
手が冷たい。
痛いほど力が込められる、腕の震えに気づいてしまった。
「……はい」



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あきゅろす。
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