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執事?ロッシュ4(6666HIT内藤御簾戸様へ)
「おはようロッシュ」
「おはよう、ロッシュ君」
目を覚ますと主人夫婦がいた。体が重くて仕方がないのは、お二人とも俺の上に乗っていらっしゃるからだ。ちょっと、いや、かなり辛い。
おふたりはそれぞれをベッドの上から落とそうと掴み合いをされているのだが、同時に満面の笑みを浮かべておられるので、これも一種の夫婦愛の形なのかもしれない。
「……おはようございます」
「ああ、おはよう。早速だが着替えるといい」
「新しい服を用意したのよ」
そうだ、雇い主の前で寝間着でいるなど許される訳がない。一刻も早く着替えなければ。
「ありがとうございます、では早急に…」
なんとか身を起こし、示された『新しい服』に目を向けた。
「……」
幻覚だ。
瞬きをした。
「どうしたのロッシュ」
「一人で着替えられないのなら手を貸そうか」
息が合っていらっしゃる、やはりご夫婦なのだ。白い二対の手が伸びてきて、
……いやいやそれどころではない!
「私一人で致します!お見苦しいのでどうぞ居間にお戻りください!」
全力を振り絞ってベッドから立ち上がり、主人夫婦をどうにか自室の外へ送り出した。扉を背に座り込む。
「何故メイド服なのだ……」
嘆いても服の形は変わらなかった。

どういうわけか普段の執事のお仕着せが全て消えていたため、仕方無しメイド服に袖を通す。肩幅や首回りが合っているのが恐ろしい。さすがに袖や裾の長さはかなり短くなってしまい、特に裾は膝が見え隠れするほどだ。
「……足が寒い」
「ロッシュー?」
嘆いたところでノックが響いた。
扉を開くとリグディがいた。
「可愛くなったな」
「……」
もう泣きたい。
「長靴下とガーター、使うか?」
「何故そんなものを」
「足元スースーするかと思って借りてきた」
「その気遣いはありがたいが俺を思うならお前の服を一式貸せ」
「きゃーロッシュさんのえっちー…いやすまん俺が悪かった、実は俺にも色々あって」
「言ってみろ」
「お前の服隠さないと俺もメイド服だって」
一瞬想像して後悔した。
「……見たくない」
「な。諦めろ。ガーターあるし」
「一応尋ねるがこれはどうした」
「お前の身長に合うようライトニングから借りてきた」
「ファロンの姉の方か…」
「新品ですのでどうぞ遠慮なく」
「ファロン!?」
リグディの後ろから執事見習いが現れた。
「その服も返して頂かなくて結構です、申し訳ありません失礼します!」
執事見習いはその通称のごとく一瞬で消えてしまった。
「…この服は彼女のものなのか」
「それにしちゃ肩幅とかお前サイズだけどその辺まるっと後回しで。ご主人様方がお前呼んでるから来てくれよ」

「おやこれは」
「ふうん」
主人夫婦の視線が痛い。特に足。
「ガーターはいつも通りなのね」
普段から靴下は膝にはめるガーターで吊っている。お呼びだと聞いてそのままで来たのだ。
「お見苦しくて申し訳ありません」
「いやそんなことはない。膝丈のスカートと靴下が織りなす見え隠れする素肌がえもいわれぬ」
「そそるわね」
「……私の台詞を取らないでもらおうか」
「あなたはいつも回りくどくてイライラするんです」
「君は直截に過ぎるよ」
なんとなく脳が理解を拒否しているがおそらく今の火種は自分の格好だ。
「着替えて参ります」
「「それは駄目」」
美しいハーモニーだ。やはりご夫婦。できることなら別の機会に拝見したいものだった。
「せっかく用意したのよ!今日一日そのままでいてちょうだい」
「わざわざメイド経験者で一番背の高いファロン君の服を出してもらったのに」
ファロン。そういえば先ほど一瞬だったが様子がおかしかった。
「これは彼女の服なのですか」
「あの子最初はメイドだったでしょう。向いていないようだったからすぐ執事に変わったけれど」
「しまい込んでいた服を出してもらったのだよ。臨時手当てを出したら寸法も直してくれた。その丈には拍手だな」
ファロンよ、お前もか。
「臨時手当てで妹と旅行に行くって言ってたわね。帰ってきたらもう少し増額してあげなくちゃ」
「珍しく意見が一致したな」
「あらそうね。不本意だわ」
お話が盛り上がっているようなので退室することにした。

「しっぽ執事がしっぽメイドになってやがら」
「うわ!?」
中庭を歩いていると突然髪を引っ張られた。
「何だよ大声出すなよ」
「なにかあったの?……うわあ可愛い!」
首をのけぞらせると黒髪の庭師がいた。さらに赤毛の庭師も現れ、羽交い締めにされたあげく髪だけでなくあちこち手を出される。
「や、やめないか…めくるな!放せ!」
「んだよ減るもんじゃねえだろ」
押さえどころがいいのかかなり力を入れても抜け出せない。
「靴下はいつも通りなんだね」
「ああそれでファロンからガーターを…いやどこを見ている!何かが減る!」
減るのはおそらく胃の内壁だ。
「ライトの方かぁ?お前なかなかやるじゃねえか」
「違うってファング、リグディさんが借りたんだよきっと」
「そっかしっぽには無理な話か」
何故わかる。というかいい加減放してくれ。後ろから密着しているせいで、その、
「あー当ててんだよ」
「耳元で喋るな!」
ついでに心を読むな。
「ファング大きくていいよね」
「でかけりゃいいってもんじゃねえぞ」
「ふーん…あ、ロッシュさんお詫び!」
「は?」
何の話だ。本当に放してくれないか。
「だな。ヴァニラ、椅子持って来い」

お詫びと称して髪を結い上げられ、顔に何か塗られた。べたべたするので洗いたいが、
『奥方様が持ってる油じゃないと落ちないからね!』
……何と申し上げれば良いのだろう。
邸内に戻ろうとすると声をかけられた。
「あ、ロッシュさんだ」
「やあドッジ君」
運転手の息子を抱き上げる。良かった、この子は大丈夫だ。
「父ちゃーん」
「よおロッシュさん……その、ええと」
屋敷付きの運転手が私の姿を認め、次にうろうろと視線がさまようのがわかる。
「何も言わないでくれないか」
「……あんたも大変だな」
「ははははは」
乾いた笑いを立てつつ、たまたま持っていた焼き菓子を子供に渡す。
「ありがとう。ねえロッシュさん」
「何だね」
「これでロッシュさん母ちゃんだね!」
「!?!」
「ど…ドッジ、母ちゃんっていうのはな?」
「知ってるよー。おやつくれたり遊んでくれたり勉強教えてくれたりして、それで父ちゃんと仲良しな女のひと!」
メイドさんは女の人だもんね!
間違っていない。一面では非常に真理をついているのだが、根本的なところに問題があることをどうやって説明すれば良いのだろう。
ロッシュはもはやいないという神に祈った。


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