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小説
前途
私はファロン一等兵、通称ライトニング。現在騎兵隊にて研修中。
なのだがたった今軍規違反を目撃してしまった。騎兵隊隊長と副官が人目もはばからずキスをしていたのだ。同部隊内での恋愛は禁止だ。
隊長が口を開いた。
「おやバレたかな。内緒にしてくれたまえ」
隠蔽を企むとはなんたる腐敗。その際いい年で小首を傾げたり内緒などと口走る姿が可愛いと思ったり、断じてしていない。していないとも。
「あー、あのな?これには理由があって」
大尉が動揺しつつもやはり隠蔽しようとする。騙されないぞ。
「公安部に通報します」
連絡コードは何番だったか。
「ああ君、頼む、恥ずかしいからそんなことはしないでくれ」
それは恥ずかしいだろう。部隊の規範たるべき隊長と副官が色恋沙汰なんて。
「今どき決闘罪で訴えられるなんて古臭すぎて笑い物になる」
「……は?」
今私の顔を見た奴は全員膾切りにしてやる。絶対、ぽかんとした間抜け面をさらしているに違いない。
「いいかね、リグディ大尉と私は先ほど意見の相違をみた。議論を交わしたが合意には至らず、互いの実力により雌雄を決することにしたのだ」
「キスで?」
「如何にも。私と彼の議論はただひとつ、すなわちどちらがキスが上手いか、これに尽きる」
頭が痛くなってきた。誰かなんとかしろ。おい、艦橋一同、何故全員目をそらす。
「寛大な女性兵士がいれば判定を頼むこともできたのだが、みな勤務中とあって手を煩わせるには申し訳ない。そこで我々は直接対決に及んだという経緯だ」
「…恋愛ではない?」
「何が楽しくてこんなヒゲ面と恋愛する馬鹿者がいるのかね。キスも下手だし」
「てめえ言わせときゃなんだそりゃ、俺のが上手いっての!もっぺんやるかこの下手くそめ!」
「望むところだがこのまま同じことをすれば今度こそ決闘罪で通報されるぞ」
「ちっ仕方ねえな…ん、お前」
大尉が私に目を向ける。
「なんでしょうか」
「見ない顔だけど新入りか」
「研修のため本日付でボーダムより乗艦致しました」
「よしちょうど良い、俺と隊長どっちが上手いか判定してくれよ。もちろん俺に決まってるけどな」
「何を言うか私に決まっている!このヒゲめ!」
「言ったな!」
再び私のことなど忘れ果ててののしりあう二人(うち一名の発言はセクハラ)を眺め、溜め息がもれた。

なあセラ、下士官になれば給料も上がって楽になると思ってたんだが、やっぱりボーダムで万年一兵卒のほうがいいかもしれない。

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