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小説
その偽善に吐気がするの(12章ネタバレ/シド)
使命を投げ出して下界のルシたちと戦い、白くひび割れていく視界に恐怖と安堵を感じて、思考は途切れた。
…それで終わったはずだった。

「おめでとう、君が新しい代表だ」

なぜ 私は 生きている ?

声も出ずに代表―元、なのか、ダイスリーを見つめる。頭が動かない。
「シ骸のはずがクリスタル、おまけに甦って地位まで手に入れて夢が叶ったというのに、嬉しくはないのかね」
嬉しい?
そうだ、私の夢はコクーンを変えること。体制だけでなくコクーン全体の意識改革を行う、一種の革命を目論んでいた。
過去形?
違う、今もそのために―だからリグディを副官にしたし下界のルシも引き込んで―
「――!」
唐突に思考がクリアになった。
騎兵隊を率いリグディと共にエデンでの発言力を高め、
―私はルシになった。今目の前に立つ男、ダイスリーが私のファルシだ。
それからは夢の残骸を擬態して自分を騙しリグディを欺き、体のいい道化を演じていた。
「ダイスリー代表」
「元だがね。喜びを爆発させたくなったかな」
白フクロウを撫でる老人をにらみつける。
「私の役目は終わったはずだ」
「左様。だから君はクリスタルになった。シ骸ではなく」
「つまり私はあなたにとって用済みなわけだ、なのに何故ー何故、私はここにいる!?」
「また用があるからに決まっている。これだから人間という生き物は愚かだな」
「また―だと」
「左様。先ほども言ったが君には新しい代表を務めてもらう」
「冗談はよせ」
「冗談なものか。
筋書きはこうだ。パージにより混乱した世情を受け現代表は辞任、新代表はパージ担当を勤め憎まれ役にも回ったPSICOM関係者ではなく警備軍関係者、中でも一都市の担当では偏りが出るおそれがあるため基地をもたない存在―広域即応旅団、通称騎兵隊の隊長が議会から指名を受けた。なかなか良くできているとは思わんかね」
吐き気がした。どこまでもかっての自分が描いた道と重なる。違うのはパージのくだりだけだ。
「断れば―」
「君はシ骸。まあそんなことは覚悟の上だろうが、そうだな。君が育てた騎兵隊の、副官あたりをシ骸にしてみるのもいいかもしれん」
リグディ。
一瞬戸惑った私を見逃さず、ファルシの化身は嘲笑った。
「聖府代表は激務だ。しっかりと務めてくれたまえ」
白フクロウが羽ばたき、私は偽善以外にすることがないと気づいた。


タイトル:Aコースより

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