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小説
翼(12章ネタバレ)
12章ネタバレ。別の時系列です。












間に合うか。いや、できるかどうかではない。やるのだ。回廊を駆ける。
展望室で我に返ってからの行動は早かった。硝煙と、そのほか様々なもので汚れたマントになど構っている場合ではない。オーファンのもとへひた走っているだろうかつての副官を追う。まだ、伝えていないことがある。
見えた。
「リグディ!」
喉がつぶれてもかまわない。叫ぶ。
ぎくりと肩が強張る。おそろしくゆっくりと、かつての副官がこちらを振り返る。どの面下げてここに来たと言われるだろうか。銃口を向けられても、それでもいい。
「リグディ、私だ、シド・レインズだ。この先に―」
目が見開かれる。唇がわななく。どれだけ罵られても足りないと知っている。息を吸う音がして、


「おばけー!!!」


空気が止まった。
「……いや、あのな?私は生きてて」
「あんた自分で撃てって言ったのになんで化けて出るんですか!」
「化けてなどいない!……いや確かに蘇ったこともあるのだが、今ではないぞ」
「やっぱりあんたおばけー!俺ホラー駄目なんですよ、さっさと往生してください」
「ホラーではなくてスプラッタだ馬鹿者!」
赤かったり焦げていたり、元々白い軍服は極彩色だ。
「どっちにしろおばけじゃないですか!俺らがPSICOMとドンパチしてたときもきっちり死んでたでしょ!?」
「引っかかったな、死んだふりだ」
「うっそマジかよ!え、でもあのとき手が落ちて、がくんって」
「うっかりラストリーヴで生き残って茫然自失だったからだ!」
「はあ!?」
「お前たちが出て行ってから羞恥のあまりのたうち回ったとも!」
「あんた馬鹿!?」
「悪かったな!」
全力で怒鳴りあって肩で息をする。
視線が重なり、睨み合う。
そうして、
――笑っていた。
「馬鹿みてえ、あんだけ世の中悟った顔して死んだふりとか」
「ううう黙れ、あれは一生の恥だ」
「蘇ったとか言ってませんでしたか。なら一生じゃなくて二生かも。あ、やっぱあんたおばけなんですか」
「おばけおばけとしつこいぞ」
またひとしきり笑って、リグディが息をついた。
「よかった、俺が知ってる隊長だ」
ゆっくりと笑う。
「ルシ作戦開始からさっきまで、別人みたいでしたよ。俺になんにも知らせないで一人で抱え込んで。いきなり消えたり聖府代表になってみたり」
「……すまない」
「謝ってもらいたいんじゃなくって、さ。なんか言って欲しかったんですよ。赤っ恥さらしたんだから、もう隠すほどのこともないんじゃありませんか」
一瞬躊躇い、そして右の手袋を外す。
「ルシになった」
目が見開かれる。
「ギアのエネルギー切れなど気にせず、いくらでも魔法が撃てる。化け物じみているな」
「便利じゃないですか」
思わず顔を上げる。
空色の瞳が私を射る。
「なんつーかね、あらかたわかっちまったし。それにあんたがおばけでも何でも、あんたならいいやって思えたし」
「……いいのか?」
「どうせ俺ら盾に取られたとかでしょ。盾で良いんですよ」
「良いわけがないだろう」
「そう言ってくれるから、俺たちは―俺は。あんたの盾になって、戦える。部下は上官守るもんです」
「しかし」
「もう上官じゃないなんて言わないでくださいね。あんたが嫌だって言ってもついていきます。何か考えてるんでしょう、今度こそ教えてください。俺は」
人形になったとき、空に焦がれた。
「シド・レインズの、盾で、手足で、副官だ。あんただけが俺に命令できる」
私はこの空に愧じることなく立てるだろうか。
「リグディ大尉」
「イエス、サー」敬礼が返される。
「ファルシ=オーファンは自壊する。我々はこれより住民避難を最優先する」
「サー、イエスサー」
敬礼の後、訝しげに目が細められる。
「自壊?」
「正確には下界のルシたちの手によるだろうが。あまり詳しいことを話している時間はない」
空は凪ばかりではない。それでも、
「エデンは崩壊する。コクーンもだ。お前は墜落する美女と運命を共にする紳士たりえるか?」
「美女のお誘いにはのりたいところですけどね。俺礼儀知らずなもんで、ドレスの中身だけいただいちまって良いですか」
たとえ運命という名の嵐が吹くとしても、そこから飛び立つ鳥がいる。
「聞くまでもない」
羽ばたくことで、奇跡を起こす。

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あきゅろす。
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