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小説
白い竜とワルツを
頭にガンガン響く音がする。まるで誰かが何かを殴っているようだ。頼むからそっとしておいてくれ。
「起きたまえリグディ大尉!」
……。幻聴だ。俺は眠い。そして寒い。たとえ敬愛する上官の声がしても緊急事態でないかぎりベッドから抜け出すのはごめんだ。
「起きないなら扉を」
破るってか。それでもベッドから出るものか。だいたい修繕費も馬鹿にならない。経費で落ちるにしても上官の責任になる。おお枕よお前こそ俺の恋…
「開かないようにしてやるからな!」
「何するつもりですかあんた!」
次の瞬間俺は枕もベッドカバーも吹っ飛ばし、自室のロックを解除していた。
「いるならさっさと返事をしたまえ」
「俺遅番明け!眠い!てか寝てた!寒い!」
部下を監禁しようとした上官は胸を張って言い放った。
「そんな薄着でいるからだ。そして私は夜勤明けだ」
「あんたが叩き起こすからでしょうに……夜勤明けなら俺のことはほっといて寝たらどうなんです」
「私のことはいいから着替えたまえ」
「はあ?」
「着替えたらすぐに左舷第3格納庫に来い。……いいか窓を見るなよ」
それだけ言い残して上官は去った。
「……艦内でどうやって窓なんか見るんだ」

「遅い」
身支度を整え、格納庫に着くと上官は何やらご立腹だった。
「いやいや。叩き起こされてから10分もたってないですよ」
「遅いと言ったら遅い。それになんだ、その軽装は」
軽装。今の格好は、勤務中と同じ青と白が基調の服だ。そういう上官はと見ると、
「……モコモコさん」
「ストレートに羊と言いたまえ。いい年をした男の口から出るとがっかりする」
ちょっと単語を度忘れしただけだ。放っておいてくれ。その間に上官は格納庫の隅から何かを引っ張り出していた。手を貸す。
「なんですかこれ……竜騎兵のポータブルジェット?艦外訓練でも始めるんですか?」
「窓を見ていないだろうな」
質問には答えてもらえない。
「居住区からここまで窓なんかありませんよ」
この顔では絶対に気づいていなかった。僅かに赤くなった頬など、色々とごまかすために咳払いをした上官はさらにそっぽを向いて命令する。
「……いいから早く装備するように」
「イエス、サー」

フル装備ではないが、背負った簡易飛行装置はそれなりに重量を主張している。
「完了っと。で?次の任務は?」
「ついて来い」
良い兵士の条件とは、命令の内容を吟味するよりも遵守することを求められる方が多い。うん俺優秀。……今日の場合は単に諦めたとも言う。
「着いた」
「左舷主翼メインセイル?ってちょっと待ってください」
上官は迷いなく気密扉を開け、外に出る。
「……これだ」
「すごい、」
言葉を失う。
純白の世界だ。
「艦橋から雪雲が見えて。朝になる頃には雲が切れると思っていた」
寒いはずだ。
「雲が切れれば巡航速度に戻る。雪が吹き飛ばされる前に来たかった」
よく見れば一面の雪というわけではなく、ところどころに外壁が見えている。艦自体も白いためにすぐには気づかなかった。
「……競争しませんか。艦首まで」
「は?」
「お先に」
返事など聞かずに走り出す。真っ白な雪に足跡をつける。
「待て!」
「待ったら負けるから嫌です」
「上官に譲ろうという気はないのか!」
「こればっかりは!」
装備の重さも忘れ走る。
艦首近くで振り向く。
「俺の勝ち、……うわぁ!?」
「馬鹿者!」
足元が消えた。空中に投げ出される。
やっと追いついてきた上官も身を踊らせ、宙に舞う。手を掴まれる。
「竜騎兵が役に立ったな」
上官の背のポータブルジェットが起動していた。俺も自分のもののスイッチを入れる。
ゆっくりとメインセイルの上に降りる。
「すみません」
「もともとこんなこともあろうかと用意したものだ。気にするな」
「不注意は不注意で……っくし」
「寒いのか」
汗が冷えたことと、今更だが薄着が身に沁みる。
「はい」
「だから軽装だと言ったんだ。……そうだな、お前がそこまで言うなら懲罰でも与えるか。……艦内までこのまま歩け」
このまま。先ほど足を滑らせた時に手を繋いだまま。
上官の顔が赤いのは、きっと寒さだけではない。それでも命令型なのがこの人らしい。
「イエス、サー。でも寒いんでこれでお願いします」
指と指を絡める。
「……仕方ないな」
誰も見ていないから。
「懲罰に追加を希望します、サー」
「何だ」
「マフラー貸してください」
「私が寒い」
「いやそんな寒くないですって。こうやって」
半分ほどき、もう半分を自分の首に巻き付ける。
「恋人巻き!」
言った瞬間生命の危機を感じた。
「首!首絞まってます!死ぬ!」
「知ったことか!」
「あんたの首も絞まってるでしょうが!走らないでください!」
「構わん!」
「構うに決まってます!」
それでも手は離れないままで、





扉開かないようにするってどうするつもりだったんですか
転送装置を使って飛空艇の模型を大量に積み上げておこうかと
あんた鬼か!
喜ぶかな、と思ったんだが
……お気持ちだけいただきます

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あきゅろす。
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