小説 腐りゆく林檎を見つめる私(12・13章ネタバレ/シド/死) 「明日を手放したのは僕だった」の続編というかおまけです。そちらを先にお読みいただくと良いかもしれません。 聖府代表になった。 すぐにも下界のルシたちが帰り、終焉が始まるというのに私は毎日「コクーンの平和と発展のために」踊っている。 人形の代表でも見えることはあるもので、ルシの手など借りずともいずれ腐り落ちた果実など捧げられて喜ぶ神などあるものか、とひとりエデンで嘲笑うばかりだった。 ひとしきり嘲笑って、ファルシの絶望に気づく。なにがしかの役割を決められて世に生まれ、世話をしても腐りゆく砂の城を作る日々。何故己はここにあるのだろう。腐るならばいっそ投げ捨て、神を呼び戻し新たな道を示してもらおう。 ―迷った子供の我が儘だ。そしてそんな子供に振り回されている自分もまた愚かで、嘲笑えて仕方がなかった。かつて夢見た明日を手放し、ひとり立つことを受け入れたはずなのに空を恋うる自分が重なった。 人としてここに立つことはすでに叶わず、では今ここにいてできることはないのだろうか。私が人であるには― 警報が鳴った。 侵入者有り。PSICOMを突破し、内部へ侵攻中。直ちに避難されたし。 執務室の扉を開けたのは青と白の隊員たちだった。 「……これが、あんたの望んだことか?」 リグディの顔があの夜と重なる。ひどいことをしているのだと思う。彼にどれだけ、どんな思いを寄せられているかわからないわけではない。恋や愛だけでなく、背中を預け志を分かち合い共に翔った。それをほかの誰でもない彼に、私が、断ち切らせるのだ。 こんなことをさせる私はやはりひとでなしで、だからこそファルシに選ばれたのではないかとも思う。 「もはや私はファルシの奴隷だ。……撃て」 繭に包まれていずれ来る終焉を家畜として待つのではなく、どれだけ憎まれても人として生きて、死にたい。 叶うことならもっとも人らしくあった、そのとき隣にいた彼の手で。 引き金が引かれたとき、私は奴隷ではなくなった。 title:Aコースより [*前へ][次へ#] [戻る] |