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虹蛇
8p
「雨喬、よく寝てたね。寝言言ってたよ」
「え、ほ、本当? なんて?」
 問われて不二崎は、うーむ、と考える人のポーズを取った後、「理解不能」と一言。
「なんだよ、それ」
 不二崎に寝言の内容を知られなかったと知って、天谷は何故かホッとした心持ちになる。
「あ、雨喬、さっきからずっと君のスマホ鳴ってたよ」
 不二崎が地面に転がる天谷のスマートフォンに視線を向けて言う。
 言われても、天谷はスマートフォンをただ一瞥するだけだった。
 不二崎が、「いいのか?」と天谷に聞く。
 天谷が「いいんだよ、どうせ迷惑メールだから」と答えた瞬間、スマートフォンが音を鳴らした。
 それを見る天谷の表情は不安を表していた。
 と、不二崎が天谷のスマートフォンを手に取った。
「迷惑メールじゃないかもしれないよ。大事な連絡かも」
 不二崎がにこりと笑い、スマートフォンを天谷に差し出す。
 天谷は不二崎の言葉と笑顔に動かされてスマートフォンを受け取った。

 スマートフォンには日下部からの電話が入っていた。
 天谷は不二崎に断って電話に出る。
『もしもし?』
 日下部の声がする。
「もしもし……」
『もしもし、天谷?』
「…………」
『あのさ、天谷、なんか怒ってる?』
「別に」
『なんかあった?』
「別に……」
『今、話せる?』
 天谷は不二崎の顔を見た。
「今、友達と一緒だから無理。電話、切っもていい? お前とは、また午後の講義で会うし」
『あの……嵐と小宮と学校終わったら買い物行く事になって、嵐が絵の具買いたいんだって。お前も欲しいって言ってたからさ、お前も一緒にどうかなって、思ったんだけど』
 電話から小宮と嵐の話し声が漏れて聞こえる。
 日下部が、お前ら、静かにしろよと叫ぶ声がする。
『悪い、あの……』
「うん、買い物……そうなんだ。あの……後で返事するから、いい?」
『……わかった。後で』
「うん」
『あのさ、天谷』
「ん?」
『なんでもない、またな』
「ああ」

 天谷が電話を切ると、不二崎が、よかったの? と天谷に聞く。
 何が? と肩をすくめて見せる天谷。
「友達とちゃんと話ししなくてさ」
「いいんだ」
 天谷は頷いた。
(あいつは友達ではないんだ)
「……そう。あ、雨喬、猫! 猫いる!」
「へ?」
 天谷と不二崎の隣に、黒猫が座って顔を舐めていた。

 天谷は不二崎と黒猫と、のんびりと休み時間を過ごした。




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