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虹蛇
4p
「何でだよ」
「何でって、何でだよ? いちゃマズいか? サンタクロース」
「別にマズくないけど、でも、俺はさ、もう信じられないよ。信じてた時期より信じて無かった時期の方が多いんだからさ、今さら、だ」
「まぁ、そう言わずにさ、今からでも信じろって。信じる者は救われるんだぜ」
「今さら、サンタクロースを信じたところで何が救われるんだか分からないよ」
「お前、言う様になったな。知り合った当初は口下手で可愛いもんだったのに、一体どうしたらそこまでひねくれられるんだよ」
「そんなの、日下部と小宮が意地悪でウザったいからだろ。俺のせいみたいに言うなよ」
 むくれる天谷に、日下部が、クスクス笑い、やれやれ、という視線を向ける。
 日下部と小宮といると、天谷は良くむくれる。
 そんな天谷を日下部も小宮も良くからかい、そして、それで天谷はさらにむくれる。
「そういや、お前、図書館にいたんだよな。お前って、本当に本、好きな」
 むくれたままの天谷に日下部が新たな話題を振ると、天谷は、少し不機嫌な顔のままに口を開いた。
「うん、まぁ。……なぁ、日下部、本当は何の理由で俺を呼び出したわけ?」
「うん? いや……だから、会いたかったからだって」
「俺と会うよりも、彼女と会えばいいじゃん。どうして俺なのさ」
「梨穂子とは連絡が取れないんだって。つうか、お前、ずっと鼻の頭に金色の紙吹雪がついてるぞ。どこで付けて来たんだよ」
「え、本当に?」
 こんな風に、天谷と日下部は、クリスマスツリーの下で、恋人たちに囲まれて、なんて事の無い会話をして過ごした。
 
「そうだ、天谷、買い物付き合ってよ」
 日下部が思い出したかのように言う。
「別に良いけど、何買うの?」
「うーん……彼女のプレゼント。怒らせちまったし、悪かったからさ、せめてもの罪滅ぼしだよ」
「なるほど」
 天谷と日下部は立ち上がり、恋人達の波をかき分けてエスカレーターでデパートの三階へと向かった。
 三階には、雑貨用品を中心とした売り場が数店舗ある。
 日下部は色々な店に入りプレゼントを吟味した。
 今二人がいるのは、冬らしい、毛糸で編んだ商品が並ぶ店だった。
 マフラーにセータ、手袋に鞄、アクセサリー、店に並ぶ商品が何でも毛糸で出来ている。
「なぁ、天谷、これなんかどう思う?」
 日下部が、赤い手袋を天谷に見せる。
 片方だけ、手首の当たりに小さな青い星のマークの付いた手袋だった。
「えーっと、どうだろうな。分かんない。俺に訊かれても……俺が日下部の彼女の気に入りそうな物なんて分かるはずもないし」
 日下部は、プレゼントを選ぶとき、いちいち、天谷にコレはどうかと訊いていた。
 訊かれる度に、天谷は難しい顔をして悩み、結局は分からないと日下部に告げた。
「この手袋、彼女より、どっちかっていうとお前に似合いそうだな」
 日下部が天谷の手をジッと見てそう言う。
「え、赤い手袋が?」
 うさん臭そうに天谷は日下部を見る。
「うん、あっ、コレ、メンズサイズもあるじゃん」
 日下部はメンズサイズの手袋を手に取ると、天谷の手に重ねる。
「はら、良く似合う」
 それは確かに天谷に良く似合っていた。
「俺に似合ったところで彼女のプレゼントにはならないだろ」
 天谷の指摘に、日下部は、そりゃそうだな、と苦笑いする。
「つか、お前の手、冷めてーね。氷で出来てんじゃねーの?」
 天谷の手を日下部は手袋ごと握り締める。
 そうして、天谷の手を握りしめたまま、冷たい、冷たい、と言いながら、腕をブンブンと揺らす。
「止めろよ、バカ! 何か、恥ずかしいから!」
 天谷は思いっきり手を引いた。
 日下部の手が勢いよく離れる。
「悪い。だって、お前の手、衝撃的な冷たさだぜ。有り得ねーよ」
「あり得るんだバカ! お前、真面目に彼女のプレゼント選べよ!」
「怒るな、血圧が上がるぞ」
「おばあちゃん心配するみたいな言い方するな、バカ!」
 天谷の返しに日下部はゲラゲラ笑う。
 そんな日下部を見て天谷は不貞腐れる。
「もう、怒るなよ。彼女にはさっき見たアクセサリーが良いかな」
 そう言うと日下部は、天谷の髪を手で、ぐしゃぐしゃにかき混ぜてから天谷から離れて、毛糸で出来たチャームのついたネックレスを見に行ってしまった。
「もう!」
 天谷は、日下部にいじられた髪を不貞腐れた顔のまま整えて、日下部に背中を向けて、毛糸編んだ鯨のぬいぐるみを手に取っていじる。
 鯨は大きな口から歯をニッと出して目を細めて笑っている。
(この鯨、日下部に似てるかも)
 天谷の頬が緩んだ。


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