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虹蛇
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 カササギデパートは駅前に存在する大きなしゃれたデパートだ。
 デパートの名前が何故カササギデパートなのかは誰も知らないが、天谷の住む街でカササギデパートの名前を知らない者は誰もいない。
 そのカササギデパートの一階の中央広場は今、人で溢れかえっていた。
 親子連れや友達同士など、色々な人達がいる中で、特に男女のカップルの姿が多い。
 中央広場をゆっくりと歩いて過ぎてゆく大抵のカップルが腕を絡めて歩いていて、彼らはそれで歩きにくくないのかという疑問を忘れそうになるほどに幸せそうな顔をしていた。
 そんなカップルたちに紛れて、見上げるほどに背の高い白いクリスマスツリーの前で、息を切らして天谷は辺りを見回していた。
 この人混みの中に日下部は本当にいるんだろうか、と天谷は不安になる。
 天谷はツリーの周りをぐるりと回って日下部を探してみた。
 すると、見つけた。
 ツリーの真下のベンチに紺のロングコートを着て、首に深緑のマフラーを巻き付けた日下部が座っていた。
 日下部は、紙コップに入ったコーヒーらしき物をプラスチックの蓋の飲み口に口を付けて飲んでいた。
 日下部を見つけて、天谷は、ほっと息をついて日下部に近付く。
「あの、日下部」
 天谷が小さな声で声を掛けると、日下部が「んっ」と、天谷を見上げた。
「早かったな、急がせちまった?」
 日下部が自分の隣の空いた場所に座る様に手で示しながら天谷に言う。
 天谷は、別に、と言い、日下部の隣に腰を下ろした。
 天谷と日下部の周りでは、数名のカップルがいちゃついている。
 男同士の天谷と日下部は完璧にこの場で浮いていた。
 天谷は恋人達に囲まれて居心地悪そうにしていたが、日下部はそんなことを気にしている様子は無く、くつろいでいる。
「えっと、日下部、何の用事?」
 日下部を横目に見て、居心地の悪さから気を紛らわせるように天谷は訊く。
 日下部は天谷の問いには答えずに、流れる人の波を眠たそうな目で見ながら、「うーん」と声を上げる。
 仕方が無いので天谷も日下部と同じ方を向き、日下部と同じようにして、通り過ぎる人達の姿を眺める。
「色んな奴がいるよな」
 日下部が、ポツリとそう言う。
「それは、そうだ」
天谷もポツリと言った。
「お前さ、今日がクリスマスだって知ってたか?」
 日下部は中身が空の紙コップを手でつぶしながら天谷に訊いた。
 天谷は首を振る。
 天谷のリアクションに日下部は何故か深く頷いた。
 そう、今日はクリスマスだった。
 だから、巨大なクリスマスツリーのあるカササギデパートの中央広場には、クリスマスのデートを楽しむカップルたちで溢れていたのだ。
 カササギデパートのクリスマスツリーはテレビのデートスポット特集で放送されていた。
 カササギデパートの、この白い巨大なクリスマスツリーは、七色に輝く電飾と雪の結晶の形をした飾りと、金平糖のように小さな無数の星で飾られていて、実に可愛らしい。
 そんなツリーの下で、天谷と日下部は、男二人で、ぼんやりと恋人達を眺めながら、ただ話をしているのだった。
(俺はここで、一体何をしているんだろう。俺達、完璧に場違いだろ)
 心の中で、天谷は嘆く。
 そんな天谷の心中を知ってか知らずか、日下部が口を開いた。


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