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虹蛇
10p
「日下部、日下部。大丈夫か、日下部」
 天谷は日下部の体を思い切り揺さぶっていた。
 
 天谷がベッドに向かうと、日下部は悪い夢でも見ているのか、酷くうなされていた。
 天谷は、日下部を、今すぐ起こさないといけないという思いに駆られ、夢中で日下部の体を揺さぶりながら声を掛けた。

「日下部、おい、日下部ってば!」
「うう……っ」
 日下部が苦痛の声を上げて目を覚ます。
 天谷はホッとして日下部の顔を覗き込んだ。
「天谷」
 日下部がぼんやりと天谷の名前を呼ぶ。
「そうだよ、日下部。大丈夫か、凄いうなされてたけど、怖い夢でも見た?」
 訊かれて日下部は、汗の浮かんだ顔をゆがませて「……まぁな」と、答える。
 日下部は、上半身だけ起き上がり、「心配させたか?」と天谷に笑って見せた。
 しかし、日下部の顔は真っ青だった。
 そればかりか、日下部の肩は小さく震えていた。
 こんな日下部の姿を見た事が無かった天谷は戸惑う。
 天谷が返事に困っているうちに日下部がまた話しかけて来た。
「天谷、悪かったな。起こしちまった?」
「ううん、眠れなくって、起きてたから」
「そうか、先に寝ちまって悪かったな」
 そう言って、日下部は天谷の頭を撫でた。
「お前、髪、濡れてんじゃん。風呂から上がってからちゃんと拭かなかったのかよ。風邪ひくぞ」
 天谷の髪を撫でながら日下部は言う。
「うん、ちゃんと拭いて、ちゃんと寝るから」
 天谷は髪を撫でる日下部の手から逃れようとした、けれど、日下部の顔を見ていたら、何だかそれが出来なくなってしまった。
 今、日下部から離れたらいけない様な気がして、そう思ったら天谷の口は勝手に言葉を紡いでいた。
「日下部、一緒に寝る?」



 天谷の台詞を聴いた日下部は天谷の髪から手を離し、革命の瞬間でも見たかのように驚いた顔をした。
 天谷自身も自分が言った事に驚いていた。
(俺は何を言ってるんだよ。一緒に寝る? ってどこから出てきた台詞なんだぁー)
 天谷の頭はパニックの真っ最中だ。
 天谷の体はメデューサに睨まれたように固まっている。
 顔も燃えるのではないかというほどに熱くなっている。
 そんな天谷に「天谷、本気で言ってる?」と日下部から声が掛かる。
 天谷が見れば、日下部は探るような目で天谷を見ている。
 そんな日下部の視線から咄嗟に逃れて天谷は床を見る。
 日下部の問いに何と答えたらいいのか分からない。
 天谷は水面に浮かんだ金魚の様に口を動かした。
 言葉にならない声が部屋に消えていく。


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