虹蛇
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これは、日下部の見る夢の中。
日下部は一人、雨の降る暗い森の中をさ迷っている。
なぜ、そうしているのか、それは、日下部自身にも分からない。
森は深く、歩けど歩けど終わりは見えなかった。
自分はこのままこの森の中で死ぬのだと日下部は思った。
そう、誰にも知られず、この森で一人で死ぬのだ。
それも良いと、日下部は歩くのを止めた。
しばらく森の中でたたずんでいると、どこからか馬の嘶く声と馬が駆ける音が聴こえた。
その音はだんだんと日下部の方へ近づいてくる。
日下部はその場を動かずに、それを待った。
雨はいつの間にか激しくなり、日下部の衣服を重くした。
それはついに日下部の前に現れた。
森の草木を蹂躙し、黒煙を纏って現れたそれは黒い馬にまたがった黒い甲冑を身に着けた騎士であった。
騎士の甲冑は血に汚れていた。
日下部は騎士を見つめる。
(ああ、騎士にはやはり、首が無い)
そう、騎士には首が無い。
スリーピーホロウの伝説の首なし騎士に違いなかった。
騎士の両手には人が片手に一人ずつ髪を掴まれて吊るされていた。
騎士の手に吊るされた二人の姿に日下部は絶望感で息が止まりそうになる。
騎士の手からぶら下がっているのは日下部の中学の時の同級生、綾弓蝶と日下部の恋人である天谷雨喬であった。
雷鳴がとどろく。
「さあ、この二人から一人選べ。選んだ方だけ助けてやる」
騎士がそう言う。
「助けてちょうだい、日下部君」
綾がそう言う。
天谷は口を閉ざしている。
二人のうち、助かるのは一人だけ。
そうは言われても……
「日下部君、助けて。私を選んで」
綾が口をパクパクさせて言う。
そう言われても……助けてと言われても、綾には首から下が存在していない。
雷の光が騎士と綾、天谷を照らした。
雷光で天谷の青白い顔が浮かび上がる。
照らされた天谷の姿に日下部の心は砕かれた。
天谷もまた首から下は失われている。
「さあ、選べ」
「日下部君、私を選んで」
天谷は何も言わない。
黒煙が日下部を包む。
「選んで」
「選んで」
綾の言葉がまとわりつく。
天谷の姿は黒煙に飲まれ、もう見えない。
選んだとして、どうなる?
二人はもう首だけたというのに。
「ワ……タ……シ……ヲ……エ……ラ……ン……デ……」
綾の口がそう動く。
天谷は、天谷はどうしたのだろう、天谷は、もう……この二人は、もう、既に。
日下部は絶叫した。
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